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第六六二話 「里の風景」


 大八車の先頭はサナが引いてサオリさんが押す1台、次に私が引いてミツキとチャチャが押す1台、最後がアラタさんが引いてアエさんが押す1台という順番になっている。


 山盛りに荷物が乗った3台の並ぶ大八車に目を引かれてか、道路沿いには少しずつ里の人達が集まってきはじめていた。


 一応、この順番にも意味があり、1台目の大八車は、サナやサオリが里に迷惑をかけたという詫びの品、2台目は、知らぬこととはいえ早乙女家宗家の者を自分の奴隷にしてしまったという詫びの品、3台目はそれぞれが1台では収まらないくらいの誠意を見せているという意味を表すのだそうな。


 実際にはサナが里に帰るならお土産の一つでも、みたいな感じと勢いで買ったものなのだが、里での立場を良くするためにはこういう見せ方をしないとうるさいのだそうな。


 特に白家宗家が。


 その白家宗家出身のアラタさんが3台目を引くことによって、そこからの当たりを柔らかくしようという狙いもあるらしい。


 それを聞いて、しきたりのある古い里は大変だな。と、他人事のように思ってしまった。


 集まってきている人たちの視線の中心にあるのは当然私達だ。


 なんとなくそれらの反応を見ると、どうやら後ろで大八車を押しているチャチャが手を振って愛想を振りまいてるっぽい。


 あ、ミツキもみたいだな。

 ときおり「兎人族、初めて見たが、愛想のいいもんだな。」といった声が聞こえたりする。


 チャチャ宛には、「可愛い」とか、「かかさん、ねこさんだねこさん」、「ねこさんだねぇ」、といった、女の子や家族連れの声が多いみたいだ。


 それらの里の人の外見なのだが、見事に「アンコ型」、つまりお相撲さん体型だ。


 小さな子はまだそれほどではないのだが、十代中盤近くになると、もう太い。


 アエさんは、ぽっちゃりしているな、と思っていたが、この中に比べると、むしろ細い方に思える。


 とはいえ、道を進むに従って、女性は細いというか、アエさんタイプが少しづつ増えてきたので、村に入る前に聞いた家系によって体型の差があるだけなのかもしれない。


 そんな稲白鬼の里だが、地形は入ってきた南側以外を山と山に囲まれ、それらの山々には棚田が光を浴びてキラキラと輝いており、文字通り稲作が中心の里のようだ。


 平地部には畑もあり、麦や、あれは、とうもろこしかな?そのほか野菜も栽培しているらしく、水路も多くて水車もあり、いかにも田園風景といったおもむきだ。


 その間々(あいだあいだ)に、ぽつんぽつんと民家があり、そこからこちらの様子を気づいた里の人達が、次々とこちらに向かって歩いてくる。


 里の中心というか、山に囲まれた中心の集落部まで来る頃には、1~2クラス分くらいの人が後ろや横を付いてきていたようだ。


 その集落部の中心、おそらくここが集会広場だろう。

 

 演劇でもするかのように大きな縁台がしつらえており、そこの中央後方に1人の少女が、そしてそれを中心にハの字を書くように左右に二人づつ、年配の女性がお坊さんが座るような黒の漆塗りに金箔拵えの椅子にどっか、と座っている。


 そのハの字、いやペの字の○の位置、中央の少女から少し下がった位置に、他の5人とは拵えが少し地味な椅子にサビラギ様が座っていた。


 その縁台に向かって大きく迂回し、縁台からは5mほど離れた距離で、それに並行に大八車は進み、縁台の正面に私達の大八車が位置するように止められる。


 サオリさんからの念話の指示に従って、そのまま大八車の横に片膝をついて私を含めてみんなが座る。


 「サオリ=サオトメ及びサナ=サオトメ、レン=キュノミス及びその娘、ミツキ、チャチャ、ほか2名、揃いましてございます。」


 一拍を置いて、サオリさんのそんな言葉が集会広場に響くと、ガヤガヤとしていた周りの人達もピタリと静かになった。


 目だけでさっと左右を見ただけでも100人は超えるほどの白鬼族の人たちが集まっているようだ。


 後方もいれれば150人?

 まさか全員が集まっているわけではないだろうから、里の人口は300~500くらいだろうか?


 「うむ、それではこれより、ここにレン=キュノミスの功労に対する詮議せんぎを行うと白家は提案する。」


 サビラギ様の前あたりに座っていた、一段と丸い老婆がそう高らかに声を上げた。


 「赤家は同意する。」


 その向かって反対側に座っている固太りをしたような、すこしゴツいおばさんの声が後に続く。


 「青家も同意する。」


 赤家のおばさんの隣に座っている品の良さそうな老婆がまた続いた。

 このひとは、アエさんよりちょっと細いくらいの体型だ。


 「黒家も同意する。」


 そう声を上げた白家の隣、青家の反対側に座っている、おばさんも比較的細めだ。

 と、いっても、それでも、ぽっちゃりといったところか。


 「一家の提案、三家の同意を得て、これよりレン=キュノミスの功労に対する詮議を行うと早乙女家は宣言する。」


 中央に座っている少女が、そう1人だけ若い声を響かせた。


 あれが、サナのお姉さん。

 早乙女家の現家長にして白鬼族の族長であるミナ=サオトメちゃんか。


 ミツキッス。


 うわー、当たり前ッスけど、どこをみても白鬼族だらけッスねー。

 あ、よくみると、ちょっと違う感じの鬼の子も少しだけいるッス。


 あれが他の鬼族との交流で生まれた子たちなんすかね?


 次回、第六六三話 「詮議」


 チーちゃんなんかは、いっそ壮観とでも思ってるのか、楽しそうに手を振ってるッスけど、アタシなんかは愛想笑いが精一杯ッス。

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