第六六一話 「稲白鬼の里へ」
「らくちんにゃー。」
「うふふ、でも手は離さないようにね?」
「わかったにゃー。」
私の背におぶさりながら、アエさんと手を握り直すチャチャ。
今はまた霧の結界の中を里に向かって移動しているところだ。
ちなみにアエさんのもう片方の手はミツキが繋いでいる。
最初はアエさんのそれぞれの手にチャチャとミツキが、そして私がアエさんの肩に手を置いて歩いていたのだが、微妙に歩きづらい上に汗ばんでいく手が気まずく、このまま里まで20分歩くのなら、と、今の体勢になったのだ。
道すがらアエさんには色々な事を教えてもらった。
たとえば、稲白鬼の里には、大きく分けて5つの家系がある。
いずれも女性が家を継ぐのは変わらないのだが、それぞれに重視する血統があり、婿、というより種の取り方が違うのだそうな。
一つは白家。
白鬼族の種しか受けない一族。
白鬼族の純血を維持する家系で、その長の発言力は族長に並ぶほどだという。
次に赤家と青家。
それぞれ赤鬼族と青鬼族とに定期的な交流を持つ一族。
白鬼族の種も受けるが、発情期が近くなると男女共にそれぞれの鬼族の元に交換交流をする風習があるのだそうな。
その際、それぞれの里にいる成人済みの異鬼族は、その鬼族に合った里へと移住し、それぞれの里の純化を図るのだという。
たとえば交換交流を元に稲白鬼の里で生まれた赤鬼族の男の子は、成人後、赤鬼族の里に移住し、そこで赤鬼族の繁栄のために寄与する。と、いった形で、鬼族全体の数を維持する意味合いもあるらしい。
交換交流には、それぞれの里に希少な男鬼を還元する意味と、その男鬼に元の家族が会いに行くという意味があり、ちょっとしたお祭りのような感じなのだそうな。
逆にその風習が絶たれてしまっているのが黒家。
元々は黒鬼族と定期的な交流を持っていたのだが、黒鬼族が魔族と共に人族と対立する『魔人族』に属してしまったため、100年ほど前に交流が絶えたとのことだった。
その代わり近年は他の亜人族からの種も積極的に受ける家系に変化しているので、ミツキやチャチャにとって、二番目に味方になってくれる家系だろうとのことだ。
じゃあ、一番目は?といわれると、当然、族長の家系である早乙女家。
人族も含めて、より強い種を取り入れ、白鬼族全体の維持と繁栄を図る一族だ。
昔は白家の発言力の方が強い場合が多々あったのだそうだが、サビラギ様が勇者とともに活躍するようになってから、里の中でも、そして亜人族の中でも早乙女家の発言力が大きく増したのだそうな。
とはいえ、狭い里の中では白家の発言力はいまだ強く、そこは注意したほうが良いとのことだ。
ざっくりいうと、人族に対して赤家と青家は協力的。
早乙女家は、協力的よりの中立派。
白家と黒家は、対立よりの中立派。
と、いった感じらしい。
他の亜人族に対しては、早乙女家と黒家が協力的。
赤家と青家が協力的よりの中立派。
白家が中立派。
と、いった感じらしいので、とかく私達は白家を敵に回さないように立ち回らなければならないそうな。
とはいえ、アエさんの旦那さんが白家からの入婿なので、白家に関しては任して欲しいと、心強いことをいってくれている。
そんな事を話しているうちに、おそらく霧自体が薄くなってきているのだろう、うっすらと人影が見えてきたかと思うと、そのうちの1人がこちらに駆け寄ってくる。
「お父さん!……って、なんでちーちゃんをおんぶしてるの?」
「まあ、色々あってね。」
▽▽▽▽▽
「すいません、大八車まで引かせてしまって…。」
「いやいや、僕にはこれも仕事のうちだからね、気にしなくてもいいよ。」
アエさんの旦那さん、アラタさんはそういいながらハムのような片手を上げる。
白家のしかも宗家から早乙女家にアエさんの婿として入ってきたアラタさんは、背は私と同じくらいなのに、どう見ても体重が3桁は軽くありそうな、でっぷりとした体型だが、笑顔が爽やかで柔らかい。
短い角刈りのような髪の間からは立派な角が伸びており、口ひげと合わせて、ぱっと見はかなり迫力があるのだが、話してみると優しげな語り口で、いかにもアエさんの旦那さんだなという感じだ。
いわゆるクマ系男子というやつで、アエさんより2つ年下の22歳だそうな。
私とも年が近いので仲良くして欲しいといってくれるお気遣いの紳士だが、本人は早乙女家でマスオさん状態なので、色々普段から人に気を使うことが多いのかもしれない。
サナと、サオリさん、そしてアラタさんと合流し、今は一列に大八車を押しながら里の中心部へと移動している。
さて、これからが本番だな。
チャチャにゃ!
おじちゃん、身体がおっきすぎて、なんか破裂しそうにゃね。
あと、おばちゃんは、かかさんよりふかふかで柔らかいのにゃ。
家にはチャチャより小さい子が3人いるんにゃって。
次回、第六六二話 「里の風景」
会うのが楽しみにゃー。




