第六五九話 「お布団」
「ばふーん!にゃ!」
そう言ってチャチャが敷き布団ごと床にダイブする。
川辺で少し早めの晩ごはんを取り終わり、陽が翳り終わる前に2階のベランダに干してあった布団を取りこんでいるところだ。
「お日様の香りがするっスね。」
ミツキも抱えている布団に頬擦りをしながら嬉しそうにそんなことを言ってる。
「これがお日様の香りなのにゃ?いい匂いにゃー。」
ミツキを習ってか布団にスリスリと頬擦りをしながら、四つん這いで尻尾をピシタンピシタンと動かしているチャチャ。
「ほらほら、他のお布団も早く取り込んじゃわないと、お日様逃げちゃうよ?」
「うにゃ?!チャチャ、頑張るにゃ!」
「あはは、じゃあ急ぐっスか!」
▽▽▽▽▽
「はっ?!寝てた?」
チャチャの再ダイブにつられミツキが、ミツキに誘われ私も布団に突っ伏し、その後、大の字になって天井を眺めていたところまでは覚えていたのだが、どうやらそのまま寝てしまっていたようだ。
朝から色々あって気が張っていた所に、お腹が肉と酒でいっぱいになり、とどめに干したての布団と来て睡魔が凶暴化していたのだろう。
両手の手首辺りを枕にして、ミツキやチャチャも大の字でスヤスヤと寝息を立てている。
たぶん、二人も私の真似をしているうちに寝てしまったのだろう。
外はすでに真っ暗になり、遠くで虫や鳥の音が聞こえてきている。
って、ベランダからこの和室まで障子開けっ放しだな。
なんでもこの家の敷地には虫や鳥、獣除けの結界も張られているとのことだが、敷地内で発生した蚊や蠅などは普通に家に入ってくるのだそうな。
幸い今までの管理がしっかりしていたのか、結界内で蚊は発生していないようで、今現在は刺された様子は無いが、念には念を入れておいた方がいいだろう。
そう思い、2人を起こさないように立ち上がると、暗い中、淫魔化して淫スキル【夜這い】を使い夜目を強化した上で、押し入れの中から蚊帳を引っ張り出す。
実は蚊帳を使ったことはないのだが、テントの内幕を張る積もりでやれば何とかなるだろう。
よく見たら幸いにも、それぞれのフックに荷札が付いていて、どっち向きでどこに引っ掛けるか書いてあったので、そう時間はかからなそうだ。
▽▽▽▽▽
「ととさん、ととさん。」
ん?なんだ?
「ととさん、ととさん、起きてにゃ。」
腹の上に乗られて胸を揺すられている。
この声と重さは…チャチャか。
薄っすらと目を開けると、外は既に明るくなっているようで、そんな中、お腹に乗ったチャチャと目が合った。
「おはようチャチャ。」
「おはようにゃぁ、それより、ととさん、下に知らない人がいるにゃぁ。」
そういって不安そうな顔をしているチャチャ。
なんでも、朝トイレに起きて、下の階に行ったら台所の方から何か音が聞こえたので、サナが来ているのだと思って近づいのだが、なんとなく気配が違うような気がしたので、障子を少し開けて覗いてみたところ、全然違う人の後ろ姿が見えたので、びっくりして戻って来たのだそうな。
ちなみに背はサオリさんと同じくらいだったそうだが、格好や体型が違ったので別人だろうとのことだ。
まぁ、サオリさん、1人じゃ台所に立ちそうもないしな。
「んあ?なんかあったんスか?」
目を擦りながら、そういってミツキが私に身を寄せてくる。
なんでも無ければ二度寝する気満々のようで、ぽてり、と、肩に頭を乗せていた。
「どうやら、お客さんが来た様なんだ。
いや、私達がお客さんだから、持ち主側の誰かが来たのかな?」
「うにゃ?」
「ママさんやサナちーの親類が来たってことッスか?」
「たぶんそうだろうね。とりあえず起きて、みんなで見に行こうか。」
サオリです。
この調子じゃ、あたし達は明日迎えに行けそうにないわね……。
え?いいの?
貴女も忙しいんじゃ…え?サナにも頼まれたの?
次回、第六六○話 「アエ=サオトメ」
うーん、そういうことなら…お願いするわね。




