第六五七話 「川辺」
「ああ、それは『どう』だな。」
「どうにゃ?」
「魚を捕まえる道具だよ。」
チャチャが抱えているのは、大きな枕ほどの大きさもある竹を編んだ籠で、片側が水を注ぐ漏斗のような作りで内側に向いており、そこから入った魚が戻れずに、もう片方に溜まる仕組みの漁具だ。
「うにゃー、こんなのでお魚捕まえられるのにゃぁ。」
そういいながら、内側に向いている方を下にして、ぶんぶんと振っているチャチャ。
たぶん、使い方を勘違いしているな。
「パパ、こっちのはなんスか?」
「これは……なんだろ?」
ミツキが注目しているのは、熱い鉄板がまるで焼き鳥を焼く道具のようにレール型に敷かれている竈だ。
しかもこれが2つある。
で、その前には『どう』が近くにあったということは、生簀なのか、タイル張りの大きな水槽のようなもの川と並行するように掘られており、川の上流側から斜めに入水口が、下流側に出水口が伸びて、それぞれが、これまた竹で編まれた網と、それを塞ぐための戸板で水量調整が出来るようになっている。
「なんか、玉もあるッスよ?」
「玉?」
ミツキの指差す方を見ると、まるでお月見の団子のように砲丸のような丸い玉が積まれている。
錆びた様子はないから、石の玉なのかな?
一つの大きさは、ちょうど竈の上に敷かれているレールより少し大きいくらい……ああ、そうか。
「これ、たぶん、湯沸かし器だ。」
「湯沸かし?ああ、焼石を作るんスね。」
さすがミツキ、一言でピンと来たらしい。
この竈に火を付け、レールの上で丸い玉を熱した後、この水槽に入れて水の温度を上げるのだろう。
川からの戸板を開ければ生簀、閉めれば露天風呂として使える仕組みか。
いや、よく考えたら生臭い風呂になりそうだから、本来、生簀としては使わないのかもしれないが。
「ってことは、これ、流れるお風呂なんスね。」
流れちゃったらお湯にならないとは思うが、水浴びでいい派であれば、それでもいいのか。
溺れたり流されたりしない分だけ、川で水浴びより安全だろう。
大きさは、チャチャが縦横すっぽり入りそうなくらいの正方形の大きさなので、150センチ真角くらいだろうか?
結構大きいが、深さは5~60センチくらいかな?
確かにこれだけの水量を温めるとなると、焼石用の竈も2つくらい必要なのかもしれない。
「ととさん、ぜんぜんとれないにゃー。」
川辺でバチャバチャと『どう』を水面に出し入れしているチャチャ。
やっぱり使い方を勘違いしているようだが、狙っているように見えるからには一応魚はいるようだ。
「どれ、せっかくだから、ちゃんとした使い方教えてあげよう。」
▽▽▽▽▽
「これで大体道具揃ったッスかね?」
先程チャチャに話しかけてすぐくらいに、サナから念話が入り、里の方は酒宴に入ってしまったので、私達が里に向かうのは明日になるとのことだった。
サナは、こちらの晩ごはんや明日の朝御飯の心配をしていたが、1食2食くらいなら自分たちでどうとでもなるし、ならなかったら何処かの夜市なり朝市なりに淫魔法【ラブホテル】のショートカットで行けばいいので、心配しないようにと伝え、ミツキやチャチャにもその旨を伝えると、色々な提案がチャチャやミツキから出始めた。
チャチャ曰く「明るいうちにお布団ぽかぽかにしてみたいにゃ。」
最初はなんの事をいってるのかと思ったが、日が高いうちに布団を干して、今晩は干したての布団で寝てみたいとのことだった。
その発想は無かったな。
【ラブホテル】の部屋の寝具は清潔ではあるが、確かに干したてのような特別な感じはしない。
この意見にはミツキも賛成したので、まずは家に戻って、2階の南側の部屋の押入れから布団一式を取り出し、人数分をベランダに干した。
ステータスからすると大した作業ではないのだが、日当たりがよい場所での作業なので、軽く汗をかいてしまう。
そうすると今度はミツキから「あの流れるお風呂使ってみないッスか?」との提案が出る。
裏口の近くの納戸をあさってみると、案の定、デッキブラシなどの掃除道具や、手桶などのお風呂セット、それから米ぬかの袋も出てきた。
米ぬかは身体を洗うためのものだろうけども、『どう』の餌としても使えるな。
それらを抱えて、今はまた川辺に戻ってきている。
ミツキッス。
あのお風呂、お湯沸かすとなると大変そうッスけど、水浴びするなら良さそうな感じッスね。
家の方は定期的にお掃除されているみたいで綺麗だったッスけど、流石に外にある浴槽は洗ってないようなので、一回綺麗にした方が良さそうッス。
次回、第六五八話 「三人での晩御飯」
晩ごはんもなんか考えなきゃならないッスけど、アタシ、竈使えないんスよね。
チーちゃん、使えるッスかね?




