第六五一話 「サキュバスさんの住宅計画」
サビラギ様の話というのは、里での私達の住む場所の話だった。
とはいえ、先日話した通り、里の中で一族として一緒に住み続ける場所ということではない。
例えるならば、ドーナッツ。
中心の穴の部分が里だとすると、ドーナッツの部分が里の結界になっているらしく、この結界の中、つまり里から見れば、人里からは離れているが、外部から見れば里の一部である場所に、隠居した族長が住むための建物があり、私達が住むのなら、そこに住んではどうか?という話だった。
本来、先代の族長の影響力が強くなりすぎないように、と、元族長が引退後に住む場所らしいのだが、サビラギ様は、年若い今の族長、つまりサナのお姉さんを補佐するために、現在は本宅に住んでおり、現在はそこが空き家になっているとの事だった。
そういう意味ではサオリさんも住む権利を持っている場所であり、里への出入りも、結界の外からよりは、かなり自由なのだそうな。
昨晩、サビラギ様がサオリさんを呼び出したのはこの話をするためだったのか。
と、いうことは、サビラギ様的にはサオリさんの婿として私を迎えるつもりだったのかな?
それはさておき、
「とても良い話のように思えますが、先代族長のサオリさんはともかく、私を含めてほかの皆がそこに住んで大丈夫なものなのでしょうか?」
「族長の隠居小屋とはいえ、実際にはサオトメ家の私有地じゃからな、そんなに固くなることはない、ましてや、我が家の血に連なるものや、その婿、そしてその娘たちが住むのなら、ご先祖も許してくれよう。」
ん?うまく疑問が伝わっていない気がする。
婿枠の私はともかく、里で増えてはいけない茶兎族のミツキや白猫族のチャチャが住んでも大丈夫か?という意味だったのだが。
「レン君、忘れているかもしれないけど、亜人族にとって、異種族の子を引き取って育てるのは、徳の高い行為なのですよ?
レン君はそれを3人も行っている上、たとえ自分自身にとはいえ、そのうち一人は嫁にまで出すところまで、きちんとしています。
里の中でなければ、そんな人の連れ子を育てることに文句をいう亜人族はいないはずですよ。」
つまり、そこはサオトメ家の私有地であり、里の一部ではあるが里の外なのでセーフということなのか。
「それなら安心しました。」
なんだかんだで外堀を着々と埋められている気がするが、落ち着ける拠点があるのは良いことだと思う。
「里では昨日からサナやサオリの慰労会の準備をしとる、ま、それに婿殿の歓迎会も兼ねても構わんだろう。
数日は本宅で過ごして貰うが、その後は、隠居小屋の方を使うと良い。
ワシも里の不妊問題やら、ロマからの手紙やら、まだまだ婿殿には相談に乗って貰いたいことがあるでの。」
チャチャの頭を撫でながら、簡単な頼み事のように話すサビラギ様。
それ、サビラギ様が相談するくらいだから、絶対大変な案件ですよね?
▽▽▽▽▽
「宿から、里への馬車を出して貰えることになっているんじゃが、一つ問題があっての。」
報告会を含めた朝食も終わり、一心地ついたところで、サビラギ様が改めて話を振ってきた。
なんでも、今は、このウシトラ温泉街にほぼ近い里への街道が崖崩れて塞がれているのだそうだ。
そのため、馬1頭くらいなら、その脇を避けて通ることも可能なのだが、馬車となると走行は無理で、このままでは、行商人が里に来るのも、里からの買い出しに出るのも支障をきたしてしまうので、困っているとのことだ。
そういや前にサナが里まで行商人が定期的に来るっていってたな。
この感じだと特別に寄っているというより、ウシトラ温泉街まで来たついでに寄っているという感じなのかもしれない。
「婿殿の腕試しをする。と、いうわけではないが、なんとかできんかの?」
そうお願いしてくるサビラギ様だが、どう考えても勇者としての力を見せろ的なニヤニヤ笑いをしている。
私の勇者としての能力は対人、しかも異性特化みたいなところがあるから、そういう物理的なものは苦手なのだが、最悪、メニューのアイテム欄に仕舞って行けば、なんとかなるだろう。
「とりあえず、見てみないとなんとも言えませんね。」
「そりゃそうじゃな、どれ、この後、少し付き合え。」
「ととさん、婆ちゃん、お出かけにゃ?」
「うーん、お父さん、あたし達も付いて行っていい?」
「なんか、嫌な予感がするッス。一緒に行けば、なにか手伝えるかもしれないッス。」
「うふふ、気のせいですよ?でも、せっかくだから、皆で行きましょうか。」
「やったにゃー!みんなでお出かけにゃー!」
昨日のお出かけが楽しかったのか、チャチャのテンションが高い。
うん、やっぱりチャチャが一番この温泉街を満喫しているな。
サオリです。
あの街道で崖崩れって、たぶん、あの仕掛けが動いてしまったってことよね……。
……まさか、動いてしまったんじゃなくて、動かした、とか、ないわよね?
次回、第六五二話 「腕試し」
でも、お母様のやることだから…。




