第六五〇話 「サキュバスさんの家族計画」
「サビラギ様が、朝食は貴賓室で一緒にどうかとおっしゃっていますが、いかがですか?」
「ええ、大丈夫です。身支度を終えたら伺います。」
「はい、では後程。」
朝風呂を終えてちょうど部屋に戻って来た時を見計らっていたのか、仲居のマソホちゃんが絶妙なタイミングで部屋に来て、そんな伝言をしていった。
「もしかして、サビラギ様って貴賓室から出られなかったりするんスかね?
こう、暗殺防止のためとか、そんな感じで。」
「建物ごと、どうこうされない限り、いや、それでもどうにもならなそうなイメージはあるけどなぁ。
……毒殺防止のため、貴賓室の食事は特別な工程で提供している、とかはあるかもしれない。」
「大変ッスね。」
「そうだなぁ。」
「なにがですか?」
ミツキとそんな話をしながら顔を見合わせていると、ちょうど長風呂かサナが帰ってきたので、概略を説明すると、
「さっき温泉でお母さんも話していましたけど、この宿で口にするのは、お部屋で提供したものだけにして欲しいって、頼まれているみたいですよ?」
と、サナから答えが返ってきた。
偉い人も大変だな。
っていうか、サオリさんとはちょうどお風呂が行き違いになっていたのか。
長風呂のサオリさんのことだから、朝食は遅めになりそうだな。
「そういえば、チーは?」
「うにゃ?」
「あ、後ろにいたのか。」
チャチャはお風呂からサナの後についてきていたものの、部屋への上り口で瓶牛乳をこぼしそうになったらしく、あわててそこで飲み干していたのだそうな。
今も、口の周りに牛乳の跡が付いている。
「飲み終わってから来れば良かったのに。」
「一本は飲み終わって、これ、二本目なんです。」
「マソホちゃんに、おかわり貰ったのにゃ。」
何気にチャチャが一番、なんの悩みもなく角赤亭を満喫している感があるな。
▽▽▽▽▽
「ほぉ!婿殿も覚悟を決めたか。これは目出度い!」
昨晩、サナやミツキと話し合ったことをサビラギ様に報告すると、手を叩いて喜んでくれた。
「確かに確かに、婿殿が長老会に勇者として認められるまでは、その方が三方都合が良かろう。
昨日は、いささか、ワシの勇み足だったな。
サオリ、昨晩の話とは変わってしまうが、これでも良いか?」
「ええ、わたしも良い話だと思います。」
と、いいつつも、若干、サオリさんの表情に影が差しているように見えるのは気のせいだろうか?
「なに、気にせず、お前も貰い種で婿殿の子をじゃんじゃん産むが良い。
婿殿達がいうように、それがサオトメ家のためになるし、なにより、お前の幸せのためにもなる。
里では立場的にミツキのように姉妹妻とはいかぬだろうが、もしもあそこに住むのであれば、内縁の妻として婿殿も可愛がってくれるだろう。
なぁ?婿殿?」
「ええ、立場が多少変わろうとも、サオリさんも、そしてチャチャとも、今までどおり一緒に過ごしたいと思っています。」
「レン君……。」
「不誠実だとは思いますが、サオリさんも私を貰っていただけますか?」
「ええ、……ええ!喜んで!」
頬に涙を伝わせながら、そういって、私の胸に身を寄せるサオリさん。
「にゃ?どういうことにゃ?」
「これからも全員一緒だよ。ってことだよ。」
「うにゃ、そんなの当たり前にゃ。
だってととさん、一緒にいてくれるっていってたにゃ。」
「そうッスね、チーちゃんのいうとおりッス。」
「それはそうと婿殿、」
そんなことを話していた三人娘を眺めていたサビラギ様が改めて口を開いた。
「こちらも、婿殿に提案があるのじゃが、聞いてもらえるかの?」
チャチャにゃ。
みんな難しいことばっかりいうにゃけど、ととさんがチャチャたちを一人ぼっちにするわけないのにゃ。
ずっとみんな一緒にゃよ?
次回、第六五一話 「サキュバスさんの住宅計画」
うにゃ?ねねさんたち、ととさんのお嫁さんにもなるのにゃ?




