第六四四話 「勇者の子」
なるほど、権力者から見れば、あの『金剛姫』サビラギが、里の男たちならともかく、わざわざ外部の人間を娘や孫の婿に選ぶのであれば、今更、勇者より格下を選ぶはずがない。と、考えるのが普通だろう。
「うーん、理屈は分かるッスけど、そんな簡単にいくもんスか?」
「そりゃ、簡単にはいかんじゃろ。まずはアサーキ共和国の長老会に諮らんとならん。
が、それだって、どこの馬の骨とも分からん奴を、勇者にしようとは連れて行けん。」
「だから、サオトメ家の馬の骨にしたいと。」
「まあ、そういう事じゃな。婿殿には断られたが。」
「え?パパ、断ったんスか?」
「ああ、婿殿は、ミツキとチャチャが、自分の愛娘がいるから、里には住めんとさ。」
「え?なんで、アタシ達が……あ、そうか、白鬼族の里だからッスね?」
「婿殿も聡いが、ミツキも中々のもんじゃな。
そういうことじゃよ、婿殿はサオトメ家の地位も名誉も安全よりも、お前さん方が大事だそうな。
愛されておるのう。」
「パパ……。」
うるんだ目をして腕に抱きついてくるミツキ。
「とはいえ、里に住まんでも、サオトメ家に入らんでも、どちらかの婿にはなって貰いたい。
少なくてもサオリは孕ませて貰いたい、というのがワシの希望じゃな。」
「それって、ママさんの方が都合がいいってことッスか?」
ミツキの眉が僅かにしかめられる。
「それは否定せんが、なにより母としての希望じゃよ。
ワシはなんだかんだといいながらも、好いた男の子を産めた、育てることが出来た。
その男との別れは悲しいものであったとしても、じゃ。
じゃが、サオリは違う。
里の掟とはいえ、粗野な男に乱暴され、望まぬ妊娠をし、二回も生死の境を彷徨った。
娘たちは無事育ったとはいえ、今度こそは好いた男の子を授かるという、もっと女として、まっとうな幸せを、生活を送って欲しいという親心じゃよ。
国同士の権力抗争なんぞは、ワシの身体が動くうちは二の次、三の次じゃ。」
そういって、ぐい呑を空けるサビラギ様。
打って変わったような笑顔で、それに酌をするミツキ。
「それなら大丈夫ッス!ママさんは、パパ大好きッスし、パパもサナちーが里に帰ったらアタシ達全員孕ませてもいいっていってたッスから。」
「なに?本当か?!婿殿が乗り気とは、これは良かった!」
「いや、いってませんからね?!」
「えー?要約すればいってたッスよー?」
どこを要約したらそうなる?!
▽▽▽▽▽
うん、いってたわ。
結果的に、ほぼ、そういうこといってたわ。
ミツキの話をよく聞くと、女系の亜人族は最低子どもを二人以上成人させなきゃならないけど、独占欲で他の男に抱かせたくないなら、私が頑張らなきゃならなくて、里に行ったら里全体での問題になっている不妊治療もなんとかするとかいってたから、確かに要約というか超訳したら里に帰ったら全員孕ますようなこといってたわ。
ちなみにそれを聞いたサビラギ様は、「婿殿は里の不妊問題まで解決出来るかもしれんのか!」と小躍りして喜んでいた。
って、いつのまにか、ミツキは席までサビラギ様の横に座り直して意気投合しているし、完全にアウェーだ。
絶対に孕ませさせるという強い意思を感じる。
▽▽▽▽▽
「いや、飲みすぎたし、話すぎた、ワシは少し寝る。」
ようやくサナとサオリさんが部屋に戻って来て、温泉街を見に行かないか?と誘って来たが、サビラギ様は祝い酒じゃとあれから更に酒量が上がったためか、ダウンしたらしい。
一寝して小腹がすいているらしいチャチャはもちろん、サビラギ様と何か意気投合して心配事が減ったらしく、テンションの高いミツキも見学には賛成らしく、いそいそと立ち上がっている。
でも流石に少し格好だけは整えるか。
仲居のマソホちゃんに新しい浴衣を用意して貰うように頼んで、サビラギ様を残し、貴賓室を後にした。
ミツキッス!
要はパパが里にいるメリットが、里で白鬼族以外が増えるというデメリット上回るか、里からすれば里にはいないけど、外部から見たら里にいるように思えるような状況になればいいんスよね?
次回、第六四五話 「温泉街見学」
そんな話をサビラギ様にしたら、なにかいい心当たりがあるらしくて、褒められたッス。




