第六十三話 「報酬」
「死んだ者。として扱っていただけると判断して良いですか?」
「無論、当然現地を確認はさせて貰うが、それに見合うだけの情報だった。確認でき次第、追加で報酬を出してもよいくらいだ。」
よし!通った!
「迷宮の不正利用疑惑に殺人容疑となれば十分に交渉の材料になろう。そういえば、買ってほしい物もあると言ってたな。奴らがそこにいた証拠か持ち物でも持っているのか?」
「証拠か持ち物というか…」
メニューのアイテム欄から王子たち3人の死体と執事の死体を取り出し、テーブルを挟んだギルドマスターの正面に並べる。
淫魔法【ウェット&メッシー】で微量の水も召喚することによって魔法エフェクトも出して不自然さを緩和した。
「レインは運搬者だったのか!しかもこの量をとは相当の腕だな。」
「これはこれは、豪華なお土産だ。」
ギルドマスターは早速スキル【人物鑑定】を使って確認したのか満足そうに頷いている。
「私はギルドに登録していないので換金できないんですよ。かといって登録すると足ついてしまいますしね。」
幽霊扱いなのにね。と言おうとしたが、この世界の幽霊は足あるんだろうか?
「隠し部屋にありました。高貴そうな身なりで不自然な死体だったので確保していましたが、それをしなければこの騒ぎにもならなかったかもしれません。その点はお詫びします。」
「いや、隠し部屋の存在と迷宮の不正利用に気づけたのはメリットだ。その点は構わないが、いつの時点で死んでいた?」
「私があの部屋で目を覚ました頃にはもう死んでました。なので私から見れば初めて見た部屋に何故かある4体の死体です。もう一人の話によると、同じく部屋で目を覚ました後、殿下が召喚魔法を唱えるまでは全員生きていたそうです。相当の魔力が動いたらしく、その余波で気絶したとのことでした。」
「眠らして運び込むとは念の入ったことだ。それより魔力の余波で気絶とはその娘は魔法使いの適正がありそうだな。」
ギルドマスターは王子たちの死体を調べながらこちらを見ずにそういった。
「王子たちは召喚した何かに殺されたと見るのが適当だろう。外傷が無いところを見ると何かの間違いで実体が無い魔物でも召喚したというところか。魔法陣を調べれば何か分かるかもしれん。」
「それにしても、これだけの隠し部屋をどうやって…」
ロマが改めて特性【ビジュアライズ】で部屋に表示している隠し部屋の様子を眺めている。
「王子や公爵家、伯爵家に顔が効き、迷宮側にも旧鉱山側にも手を入れられる人間など、そうはおらんよ。」
「あー、あいつか。と、なれば裏の仕事の死体処理にも迷宮を使ってそうだな。」
「さすがにお遊びだけじゃデミオークが常駐するほどにはなるまい。副評議委員長殿は働き者なことだ。」
ギルドマスターやロマには心当たりがあるらしい。
「王子たちの『失踪』の責任を公社やギルドに押し付けようとしたのだろうが、レイン嬢のおかげで、なんとかなりそうだ。」
「師匠、失脚まで行けないか?あいつがいなくなれば大分風通しが良くなりそうだが。」
「その辺りは公社とも相談になるな。」
「そのお話はそれくらいにしていただかないと、私も聞いちゃいけない事まで聞いてしまいそうです。」
二人の会話がヤバそうな方向にいっているので口を挟む。
ここまで来て聞き過ぎでブスリというのは勘弁して欲しい。
「これはすまなかった。ところで報酬の方だが、当初の報酬と同じ大金貨3枚、それから情報提供料と口止め料を含めて追加でもう1枚、大金貨を出そうと思うがどうだろう?」
「十分です。ただ私には大金貨1枚分で結構ですので、残りはもう一人の情報提供者に渡してください。」
「ほお?欲の無い事だ。なにか理由が?」
「もう一人がロマさんに繋いで貰えなければこのお話は出来なかったでしょうし、女の子の方も同じ犠牲者として奴隷から解放してあげたい気持ちもあるので。」
「わかった。ロマを通してそう取り計ろう。いいな?」
「了解した。レイン、俺を見かけたら声をかけるようにレンにも言っておいてくれ。」
「わかりました。」
「レイン嬢、ちょっとこれ消してくれないか。自分の机がどこにあるか分かりづらい。」
特性【ビジュアライズ】を解除すると、ギルドマスターは机に向かい、その引き出しから紋様が刺繍された小さな袋を持って戻って来た。
「大金貨1枚分の報酬だ。と、いってもそのままだと使いづらいだろうから、適当に両替をしてある。」
「数えてみても?」
「もちろん。」
テーブルの上に並べ数えてみると、金貨が9枚、大銀貨が9枚、銀貨が10枚入っていた。
「確かに。」
王子達の死体を出した時のように、魔法エフェクトを出した上でメニューのアイテム欄にしまう。
「この騒ぎが落ち着いたらレインは探索者に登録しないのか?運搬者としてそれだけの腕があれば、引く手数多だぞ?」
ロマがそういって勧誘してくる。
「路銀も出来たので故郷に帰るのを第一にしようかと。」
「そうか、それは残念だ。」
ロマは本当に残念そうだ。
相変わらず表情に出やすい人、いや鬼だ。
「とはいえ、当ギルドとしても借りができた形だ。その金貨が入っていた袋は『そういう相手』に各ギルドマスターが渡す品物なので、探索者ギルド関係でなにかあったらそれを見せるといい。力になれるだろう。」
そういってギルドマスターはニヤリと笑った。




