第六三三話 「金剛姫 サビラキ・サオトメ」
「そなたがレン・キュノミスか?うんうん、確かに何となく面影がアヤツと似ておる。
本来であればワシがそちらの部屋に出向くところなのだが、それをすると、そなたの立場が悪うなることがあるでの、失礼ながらこうやって呼び出させて貰ったというわけじゃ。
ささ、そんな所に立っておらんで、ずずっと奥の席へ座ってくだされ、婿殿。」
部屋で目が合うなり、金剛姫 サビラキ・サオトメ(だよな?)はソファーから立ち上がり、気さくにそう話しかけてきた。
背はサオリさんより少し小さいくらいか、ミツキと同じか少し上くらい。
髪型は黒髪をポニーテールの姫カットにしている、というのが表現的に近いかな?
ただし前髪はパッツンではなく真ん中分けで、その下に意思の強そうな眉が、そしてその更に下には濃い紫の瞳が輝いている。
なるほど、チャチャのいうとおり髪色のせいもあってサナに雰囲気が似ている。
いや、逆か、鼻筋や桜色の唇も含めて、サナがお婆ちゃんに似ているのか。
サナと違うのは、その鼻筋に横一文字に古い切り傷が入っていることだ。
刀傷なのか何かなのかは分からないが、金剛姫、姫と呼ばれる容貌の中に、歴戦の強者でもあるという雰囲気を漂わしている。
着ている服はサナの種族衣装の色違いで、まるで満月の月明かりのような白さが美しい、というか神秘的な印象を与えているが、たぶん、これ族長の正装かなにかだよな?と思わせる気品と高級感を感じる。
髪型や衣装、鼻筋の傷を除けば童顔な顔つきも含めて、それでも三十路前後くらいにと若く見えるが、サナのお婆ちゃん、いや、サオリさんのお母さんというからには、最低でも40代中盤。
おそらく50歳前後くらいの年齢だと思われるが、亜人族の見かけの歳はさっぱり分からん。
三十路の外見をもって姫と呼べるか?というのは若いうちは異論も出るだろうが、歳も四十を迎えた我が身から見れば普通にお嬢ちゃんだ。
「なんじゃ、あっけにとられたような顔をしおって。
おー、おー、そういえば、名乗っておらんかったな。
ワシがサビラキ・サオトメ。
そなたが助けてくれたサナの祖母じゃよ。」
▽▽▽▽▽
てっきり面接よろしく一人がけのソファーの方に座らされるとおもいきや、こっちが上座のソファー席の真ん中に、サビラキ様が一人がけの方に座ることになり、恐縮してしまう。
「まあ、人がいるところではな、座る位置すら上だの下だの文句をいう奴もおるで、人払いをさせてもらってはおるが、気にせんでおくれ。
ほれ、茶はどうだ婿殿?
ここの茶は良い葉をつかっているぞ?」
「は、はぁ、いただきます。」
どうしよう、めっちゃフレンドリーだ。
いや、確かにサビラキ様のいうとおり孫の恩人には当たるのだろうけど、これは、あれだね、発情期が原因とはいえ、サナに手を出してしまっているどころか、サオリさんにまで手を出してしまっている後ろめたさが、私の緊張の原因になっているっぽく、全然、お茶の味が分からない。
「ところで婿殿。」
「婿殿?」
いや、ずっと気になっていたのだが、その呼び方は何?
「おや、サオリやサナが嫁では不満か?」
「いえ、そういう意味ではなく……」
カカカと楽しそうに笑いながら切子グラスに注がれた水出しの緑茶を口に傾けるサビラギ様。
からかっているようにも見えるが、目は笑っていないようにも見えないでもない。
もう疑心暗鬼になっちゃってるな、私。
手を出したからには嫁に貰ってもらうぞ?と強制されているような。
いや、亜人族の感覚からすれば、それは無いとは思うのだが、族長に連なる者たちはそうではない。みたいな落とし穴があるのでは?とも思ってしまう。
いや、嫁に貰う事自体は不満ではないのだが、どっちを?とか、ミツキやチャチャの立場は?とか、その辺りを考えてしまい、混乱してしまっているのが実情だ。
「ふむ、稲白鬼の里は白鬼族の隠れ里じゃ。
サオリかサナに婿入りして本家に入るにせよ、どちらかが分家してそちらに婿入りするにせよ、そうせねば、人族が里で一緒に住むことは叶わぬぞ?」
グラスをテーブルに起き、両肘をテーブルの上について、指を絡めるように手を顔の前においたポーズでこちらを見つめてくるサビラギ様。
叶わぬぞ、とは言っているが、逆にいえば、それさえすれば許してやろうと言っているのと同意だ。
だが、
「その場合、私の娘であるミツキやチャチャはどうなりますか?」
サオリです。
ミツキちゃん方と一緒に部屋に戻る事になってしまいましたが、レン君、大丈夫かしら?
サナの恩人だというのは念を押してあるから大丈夫だとは思うのだけれども……。
次回、第六三四話 「稲白鬼の里」
どうもいつもと雰囲気が違うのが気になるわ。




