第六二〇話 「氷」
サナは氷屋から板氷の作り方のコツなんかを熱心に教わっていた。
やはり【魔力操作】は必須で、魔法の形状や射程を操作して板氷を作るのだそうな。
淫魔法【ウェット&メッシー】で出せる氷はクラッシュアイスだから、形を変えれるなら色々と応用が利きそうだ。
もしかして、サナは前に何かの時に話した『氷箱』を作るつもりなんだろうか?
氷箱というのは、上段に氷を、下段に食材を入れる構造になっている冷蔵庫の原型で、淫魔法【ラブホテル】で繋ぐ部屋にある冷蔵庫を里でも使えたらいいのに。というサナに、そんなものがあるという話をしたような記憶がある。
さすがに個人宅に氷箱を、とまでなると氷の供給が大変そうだが、里に氷室を作って共同で使うなら、いま教わっているコツだけでも十分そうだな。
断熱性の高い施設を作って、その床や壁に先程のように氷壁を出せば、それだけで相当保つだろう。
まぁ、サナがレベル40になった今だから簡単なだけで、一般的には文字通りレベルが高い方法だろうけども。
この後、氷屋は2枚目の氷壁を作るというので、お礼をいって別れ、引き続きサナと卸売市場巡りを楽しんだ。
▽▽▽▽▽
「そんなことがあったんスか。」
「凄いにゃ、氷の器にゃ。」
「器用ねぇ。」
今日の朝食は、中身だけじゃなく器からサナ特製のそうめん定食だ。
最近は夏真っ盛りなのか、朝から気温もかなり上がってきているので、さっぱりとしたものは食べやすい。
とはいえ、この別荘はエアコンも付いているので、どちらかというと気分的なものだな。
「パパは今日どんな感じッスか?」
「治療は2人くらい、あとは清算して終わりかな。昨日よりは早く合流できると思う。」
「こっちもそんなにかからないと思うッスから、ゆっくりでもいいッスよ。」
そんな風に朝食兼打合せを済ませ、【遊泳の加護】を受けにいった後、みんなと別れ娼館ギルドへ向かった。
▽▽▽▽▽
「これで全員ですか?」
「もうちっとやって欲しいとこではあるがのう。残念ながらこれでトントンじゃ。」
娼館ギルドのギルドマスターは、つまらなさそうにそういって、テーブルの上に、どこかで見たような袱紗を乗せ、こちらに滑らせる。
「おつりとおまけじゃ。」
ギルドマスターが顎で開けてみろと促すので手に取り中を覗くと、以前カレルラに貰ったようなカードと3枚の大金貨が入っていた。
「カレルラさんにも同じようなものを貰いましたのでカードは分かりますが、このお金は?」
「いや、ちょっとのう。治してもらいたい娘が多くて、予定よりも足が出た。
そこであの猫人族の娘のためにお主が払った分があったであろう?
その分を返すことで帳尻を合わせた。と、いう訳じゃ。」
そんな勝手に。とは思ったが、言い値でやるといったような仕事なので反論は出来ないし、チャチャのためとはいえ家計から使い込んだお金が戻ってくるなら悪い話ではない。
25金貨分の出費が30金貨分で戻ってくるのならなおさらだ。
「わかりました。ありがたく受け取らさせていただきます。」
「うむ、そうしてくれ。あと、こっちは探索者ギルドへの紹介状じゃ。これも受け取るが良い。」
丸めて蝋で封をした書類をテーブルの上に追加するギルドマスター。
「紹介状?」
「おお、ゴールドの探索者への紹介状じゃ。」
「え?!」
本来のレベルがバレた?と一瞬思ったが、そうではないようで、ギルドマスターの言葉が更に続く。
「探索者はどう思っているかは知らんが、街の者からすれば、探索者のランクというのは、詰まるところ街にとって有用か、そうでもないかの2種類じゃ。
そういう意味では、シルバーでやっと信用も含めて街の人間として一人前というところじゃな。
だが、その上のゴールドというのは、また話が変わる。
金を払ってでも街にいてもらいたい探索者、それがゴールドじゃ。」
そういや、ゴールド以上の探索者は給料が出るんだっけか。
チャチャにゃ。
ねねさん、チャチャのこと器用にゃっていうけど、ねねさんもお料理とか、この器とか、とても器用だと思うのにゃ。
次回、第六二一話 「ゴールドへの道」
それにしても、チュルチュル、冷たくて美味しいにゃぁー。




