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第六一五話 「井戸より」


 「ちょっとサオリさんの様子を見てくるから、二人はドロップ品をよろしくね。」

 「了解ッス。」

 「はいにゃ!」


 万が一に備えて、二人をこの場に残し、サオリさんがいるはずの通路へと走っていく。


 「サオリさん、大丈夫ですか?」

 「レインさ、ちゃん?」


 いや、小さくなっているからって、呼び名を変えなくてもいいんだけども。


 自分より背が高いサオリさんを頭から順にチェックしようと思う前に、トリプルヘッド・シャークのライトニングボルトで焼け溶けかかった左の脚部から足元までの装備が目に入る。


 これ、魔法で出した軽甲冑じゃなくて、私やミツキみたいなレザー装備なら炭化してたかもしれないな。


 いや、軽甲冑だからこそ避けきれなかったのかもしれないので、この辺りはなんともいえない。


 腰から上の装備はなんともないので、避けきれなかったというより、咄嗟に横に飛ぶか、伏せるかしたようだ。


 「これは酷い…痛みませんか?」

 「戦っている最中は感じませんでしたけど、今は少し…。」

 「装備を外しますね。」


 サオリさんを座らせ、脚部の装備を外そうとするが、


 「痛っ…。」


 サオリさんの表情が苦痛に歪む。


 どうやら中で焼けた肌が装備にくっついてしまっているようだ。


 「すいません、一回装備を消します。」


 サオリさんにかかっている淫魔法【コスチュームプレイ】を解除させることにより、肌から引き剥がすこと無く装備を消す。


 「うわ…。」

 「思ったよりひどかったですね。」


 他人事のようにサオリさんがそういうが、今日はちょっと焼き肉は食べたくないような光景が目の前に広がっている。


 「治してしまいますね。」

 「いえ、このままでは火傷の後が残ってしまいますから、私が再生させます。」


 ばつが悪そうに自分で回復魔法をかけようとするサオリさんを押し留め、淫魔法【おっぱいの神様】を唱える。


 さっき【コスチュームプレイ】を解除したため、サオリさんは今、全裸なのでちょうどいい。

 発動した魔法を両手に留めながら、サオリさんの胸へと手を伸ばした。



▽▽▽▽▽



 「かかさん、大丈夫だったにゃ?」

 「ええ、心配かけてしまったわね。」

 「いやー、良かったッス。…って傷一つないッスね?」

 「いえ、結構大きな傷があったのですけど、レインちゃんが治してくれましたから。」 「ご主人ちゃん、流石ッス!」


 ご主人ちゃん?


 これ以上、呼び名がややこしくなる前に、種族特性【ペドフィリア】を解き、種族特性【トランスセクシュアル】で男の方の元の身体に戻ったのと、サナが私達のいる場所に飛び込んで来たのはほぼ同時だった。


 「お母さん!」

 「大丈夫よ。ほら、このとおり。」


 そういいながら、踊るように身体を動かし、おどけてみせるサオリさん。


 「良かった…。」


 そんなサオリさんに身を寄せるサナ。

 うん、ホントに無事で良かった。



▽▽▽▽▽



 「あれだけ警報がなっていたのに井戸から戻って来たのか!」

 「少なくても地下5階層から見える範囲には、もう何もいなかったですよ?」


 井戸から上がってくるなり、セイウチっぽいギルド職員に怒られるが、それこそ想定内だ。


 わざわざトリプルヘッド・シャークを苦労して倒したのは井戸を、ひいては迷宮を封鎖させないためだったのだから、もう安全だということはアピールしておかなくてはならない。


 「なに?本当か?」

 「6階層の入り口が見えるくらいまで潜っても大丈夫でしたし、表層側には何も影が見えなかったので、その隙に上がってきました。」


 うん、嘘はいっていない。


 「ふーむ、一度、調査隊を出してみるか。

 貴重な報告ではあったが、今後はこんな無茶は慎むように。いいな?」


 「わかりました。」


 どちらにしても、今日の迷宮はこれで終わりだな。



 ミツキッス。

 アタシ達を遠ざけるってことは、たぶんママさんの怪我が酷い可能性があるからッスよね。


 ビリビリの電撃にご主人さまがやられた時も、黒焦げにになっていたッスし、酷い怪我じゃなければいいんスけど…。


 次回、第六一六話 「蟹肉」


 それはそうと、ドロップ品、結構多いッスね。

 高く売れそうッスけど、ランク4の敵のドロップ品を、うちら、シルバーが納めたらまたなんかトラブルがありそうで怖いッス。

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