第六一三話 「生存確認、そして」
生存確認、良し。
サオリさんにはダメージはない。
いや違う。体力ゲージ1本丸々持っていかれている上、状態異常【麻痺】がかかっている。
「サナ、状況、麻痺!怪我は私が!
ミツキ、チャチャ、サメの注意をサオリさんからそらせて!」
「は、はい!」
「了解ッス!」
「うにゃー!」
ミツキが何やら呪文を唱えながら腰の剣を2つ抜き、そのまま落下していき、ハンマーを構えたチャチャは壁でも蹴ったのか、それよりさらに早く落ちていく。
私もトリプルヘッド・シャークの背に飛び乗り、ステータス画面を頼りにサオリさんの位置を特定、そして淫魔法【精力回復】を唱える。
サナはスキル【感覚強化】で、その魔法発動位置を捉え、同じく麻痺回復の魔法を唱えた。
「かかさんは食べ物じゃないにゃ!」
サメが麻痺したサオリさんに食いつこうと、悠々と正面の頭を向けた瞬間、電撃を発した方の左のサメの頭の鼻面をチャチャのハンマーが捉えた。
「させないッスよ!」
雷を纏ったミツキのレイピアとマン・ゴーシュが同じく右のサメの頭の鼻面を捉える。
より効果があったのはミツキの一撃、いや二撃の方のようだ。
サメの鼻先にある、周囲の電場を感じ取る超高感度の電気センサーであるロレンチーニ器官に雷をぶつけたのだから、人間でいうなら閃光で目潰しをされたような感覚なのだろう。
あんだけ雷魔法が効かなかった後なのに、ミツキはよくそういう事、咄嗟に思いつくよな。
大きく身じろぎをして右のサメの頭は、その相手であるミツキを襲おうと噛み付きを試みているが、当然ミツキの場所が分からないその口は宙を喰んでいる。
右のサメの頭的には、もう一歩前に進み、大きな空間ごと噛んでしまいたいのだろうが、反対側の左のサメの頭も、最初の一撃の後、連撃で鼻先をタコ殴りにしているチャチャを襲おうと噛み付き攻撃をしているため、ベクトルが釣り合って、どちらにも、そしてサオリさん側にも進めないでいる。
チャチャの身体は、左のサメの頭にとって標的としては小さすぎるうえに、常に動きながら攻撃しているためか、その位置を捉えきれておらず、攻撃が1テンポ遅いくらいなので、どちらもしばらくは大丈夫そうだ。
『ん…油断しました…。』
『大丈夫ですか?サオリさん。』
『咄嗟に躱したつもりだったのですが、避けきれなかったようです。』
サナの麻痺回復が効いたのか、ようやくサオリさんから返事が返ってくる。
『後は自力で回復出来ますから、レン君は攻撃へ移ってください。わたしもすぐ続きます。』
『わかりました。』
サオリさんの返事を聞いた後、槍を大きく振るい、今立っているサメの背中に突き立て、【ドレイン】。
初撃からここまで与えたダメージはかなりなものだが、元の体力が膨大な上に、体力のゲージ持ちなところを、まだ1本分も削りきれていない。
もう1、2発、大きい攻撃で削りきってしまいたいが…
あ、今、結構減った。
角度的に視認は出来ないが、のけ反った真ん中のサメの頭の鼻先がバツ印に切り裂かれているので、サオリさんの反撃だろう。
【ドレイン】の割合で体力を持っていく特殊攻撃を抜かせば、トドメになるダメージソースはサオリさんの薙刀かサナの魔法のどちらかだろう。
そんなことを考えていると、サメの身体が大きく振るえ始めた。
>トリプルヘッド・シャークの【トルネードアタック】
『ヤバい!全員、サメから離れて!なるべく遠くに!』
そう念話を出した瞬間、サメはその身を丸めるように縮め始めた。
咄嗟に淫魔法【淫具操作】で天井から垂らしているロープを引き寄せ、それに捕まり、高速で巻き上げる。
奴の狙いは…
3つの頭を大きく広げた状態での高速回転をしつつの真上へのジャンプ。
水平方向への範囲攻撃かつ、頭上の私狙いか!
念話の返事からすると、水中の3人はこの攻撃を躱せたようだし、迷宮の壁を背にした状態のままサメの回転はすでに止まっているものの、そのジャンプは天井にも届こうかという勢いで、3つの頭から私自体が逃げ切れそうもない。
ゆっくりと時間が流れているかのように意識が高速化し、サメの3対6つの目と目が合う。
まるで、変な攻撃で体力を奪っていたのはお前か。という言葉が聞こえてきそうだ。
ああ、そのとおりだ、そして、さようならだ。
「サナ!」
「はい!」
船首側にサオリさんに斬られた腹を見せるタイミングを計っていた、サナの呪弓から放たれた矢が、その傷口に吸い込まれていく。
チャチャにゃ!
かかさんは食べさせないにゃよ!
こうにゃ!こうにゃ!
もちろんチャチャも食べられないにゃ!
次回、第六一四話 「瞬間」
こうにゃこうにゃこうにゃこうにゃこうにゃこうにゃ!




