第六一二話 「電撃戦」
「いくッスよ!」
「はいにゃ!」
サナの中級範囲土魔法で傷がつき、鮫肌の装甲が薄くなったところを狙ってミツキが、短槍を垂直に立てる。
と、同時に、その柄尻をチャチャのハンマーが捉えた。
二人の得意なコンビネーション杭打ちだ。
それを2箇所繰り返すと、トリプルヘッド・シャークは痛みからか、それとも煩わしさからか、大きく身を振って、背中に乗っている私達を振り落とそうとする。
「おっと。」
「にゃんと。」
だが、それくらいで振り落とされる私達ではない。
なにげに私だって、淫魔の身体の時は、【器用】のステータスA+で一番高いしな。
左右の身じろぎに効果が無かったと思ったのか、次は上下に大きく身体を降るサメ。
それを待っていた。
サメの背中が高く上がった瞬間を見計らって、淫魔法【淫具操作】で天井に蜘蛛の巣のように配置したロープから、更に下向きに伸びているロープを操作し、チャチャとミツキに捕まらせ、私もそれに続く。
「サナちー、いいッスよ!」
「いくにゃー!」
「はい!」
当然、ここで来るのはサナの初級単発雷魔法、いや?これ、初級範囲雷魔法をスキル【魔力操作】で集約させたやつだな、
刺した杭を避雷針にしての敵体内に向けての電撃攻撃。
三人娘の必殺コンボだ。
水中の敵なら麻痺効果まで期待できる。
はずだった。
「うにゃ?」
「効いて…ない?」
「いや、ダメージは入っていないことはないが…」
避雷針代わりの短槍に落雷の雨のように降り注いだ電撃をトリプルヘッド・シャークは意に介した様子がない。
むしろ短槍を刺した時の方がまだ反応があったくらいで、泳ぐ速度も落とさず、そのままサオリさんの方へと突進していく。
『一回、止めます!【金剛結界】』
通路にその3つの頭をねじ込もうとするサメの頭を通路ごと封鎖したサオリさんの【金剛結界】が阻む。
よし、スピードさえ乗ってなければ、あの巨体の突進でも止められるのを確認出来たのは大きい。
サメはバウンと大きな音を立て頭を跳ね返らせたかと思うと、そのまま背中を反らすように空中で一回転する。
「危ないッス!」
「にゃぁ!」
そのまま、空中でロープに捕まっている私達に尾びれをぶつけてこようとするが、【淫具操作】での高速ロープ巻取りで、それを回避した。
空中にいても噛み付いてくるだろうとは思っていたが、尾びれでくるとは想像力不足だった。
サメはそのまま再度、サオリさんの方に向かっていったかと思うと、また【金剛結界】で阻まれる寸前、ふいに右を向いた。
いや、左側のサメの頭がサオリさんの正面を向いた。
>トリプルヘッド・シャークの【ライトニングボルト】
ライトニングボルト?!
『サオリさん、危ない!躱して!』
ガパッとあいた左のサメの口に光が集まっていったかと思うと、その大きな口から直線状の電撃が発せられた。
『きゃぁ!』
サオリさんの【金剛結界】は、一瞬そのドラム缶ほどの太さにもなるその電撃を受け止めたものの、やすやすと貫通され通路がその光で染められていく。
『サオリさん!』
『お母さん!』
『ママさん!』
『かかさん!』
期せず一斉に発せられた念話にサオリさんからの返事がない。
電撃により海水が分離されて発生したのか、それとも電撃により撹拌されたのかは分からないが、電撃が通った場所は泡立つように白くなり、中の様子が視認出来ない。
まて、落ち着け、大丈夫、サナの中級魔法防御がかかってる上に、サオリさんは体力のゲージ持ちだから、一撃死は無い…はず。
視認ができないなら、メニューのステータスから淫スキル【ナルシスト】経由で種族特性【眷属化】した対象のステータスが確認できるはずだから、まずは生存確認だ。
サナです!
雷魔法が効かないどころか鮫が雷を吐くなんて!?
『お母さん、大丈夫!?お母さん!」
駄目です、返事がありません!
どうしよう、どうしよう…。
次回、第六一三話 「生存確認、そして」
え?はい、お父さん、じゃなくて御主人様、わかりました、合わせます!




