第六○六話 「シルバーへの道」
「良かったんスか?全部渡しちゃって。」
「大丈夫にゃぁ。チャチャは元々、自分のお金なんて持ってにゃかったから、元に戻っただけにゃぁ。
あ!ちゃんと今日もご飯の分は働くにゃ!」
「うふふ、チャチャちゃんは働きものだから、今日もきっと美味しいご飯を食べれるわよ?ね?サナ。」
「うん、今日はごちそうにしようね。」
「やったにゃあ!チャチャもちゃんとお手伝いするにゃぁ!」
「チーちゃんが張り切ると、アタシ、台所に居場所なくなるんスよね…。」
そんな事を話しながら馬車乗り場を後にする4人。
私はというと用事を足してから追いかけると一声かけてその場に残り、空元気を見せるチャチャと、それを知りながら優しく包み込むよう受け入れる三人を、眩しく思いながらも見送った。
▽▽▽▽▽
「こんな金額、受け取れません!」
「いいや、アリーチャ達のために、何よりチャチャの気持ちのために受け取って貰う。」
馬車乗り場で顔を合わせるなり、チャチャの贈った革袋を返そうとするベルタ。
まぁ、娘が義理の姉に何か貰って来たと思ったら、70万円くらいの札束だった。
みたいな状態なので、気持ちは分からないでもない。
と、いうか、ベルタはともかく、チャチャの妹たちの当座の生活費のために、私も多少の金額を渡そうと思っていたのだが、チャチャに先を越されてしまった形になっている。
「チャチャもいっていたが、それでを使って旅先でアリーチャ達に何か美味いものでも食べさせてやれ。
あとは、生活が安定するまで生活費として使ってもいい。
落ち着いたら、妹達からチャチャに手紙を送らせろ。
宛先は、そうだな、エグザルの探索者ギルド宛でいい。」
「あ、あの、私達、文字が書けません。」
「ネネの街まで行けば、代筆屋でもなんでもあるだろう?それに使うだけの金額は入っていたはずだ。」
そういって、ベルタの持つ革袋を指差す。
「わかっているだろうが、そのお金を私利私欲に使ったら…」
「そんな事はしません!」
食い気味に否定されるとは思わなかった。
「このお金は、娘達の為にだけ使うと誓います。それが、私に取って出来る、唯一の贖罪ですから…。」
そういいながら、革袋を胸元でギュッと抱きしめるベルタ。
この様子なら大丈夫だと、信じたいところだな。
▽▽▽▽▽
「お父さん、今日のお仕事はどれくらい?」
ベルタとの話が終わり、早足で追いついた途端、サナからそんなことを聞かれた。
「診察は全部終わって、後は治療だけだから、魔力が無くなり次第、午前も午後も終わりかな?
だから、お昼ごはんを届けるのも大丈夫だし、午後からも、ひょっとしたら迷宮で合流できるかもしれないよ?」
「それはいいッスね!」
「チャチャも、ととさん待ってるにゃぁ!」
「うふふ、わたしもですよ。」
四人の新しいコンビネーションに疎外感を感じていたが、こう合流を待ってくれていると思うと、ちょっと、いや、だいぶ嬉しい。
「お父さん、早く帰って来てね?」
「いや、今日はあと2回は出勤しなきゃならないから、その言葉はちょっと早いな。」
▽▽▽▽▽
お昼ごはんを迷宮に届けた時には、狩りの様子は、とても順調な様子だった。
特に一昨日から続けていた納品自体を依頼していた商人と、たまたま探索者ギルドで出会えて、直接依頼を受けることが出来たのも大きい。
別の探索者ギルドとはいえ、シルバーだった実績を買われて、カッパーとしては特例に近い形でギルド側も認めてくれたので、これはかなりの高評価が期待できる。
需要と供給が一致しているというのは大きいな。
それにしても、
「そろそろ、蟹狩るの飽きてきたッス。」
まぁ、素材目的として狩り続けると、そうなるよね。
サオリです。
慣れてきたのか蟹狩りは凄く順調なのですけど、ほぼ同じ事の繰り返しなので、ミツキちゃんじゃないですが、少し飽きてしまいますね。
次回、第六○七話 「救援」
単調なのは油断に繋がるので、気を引き締めなくてはいけません。
 




