第六○五話 「弟妹との別れ」
ややしばらくして、姉妹同士、そして姉弟の会話が一段落したのか、チャチャが弟妹3人を連れてこちらにやって来た。
「この人がチャチャの新しいととさんにゃ。
こっちがねねさんで、こっちがねぇね。
そしてこの人がねねさんのかかさんにゃ。」
そういいながら、一人づつ弟妹に紹介していくチャチャ。
うちのパーティーの複雑な人間関係をチャチャなりにちゃんと理解してしているらしい。
「こっちがチャチャの妹のアリーチャと、ビーチェ。こっちは弟のエリオにゃ!」
そして今度は私達に弟妹を紹介してくれるチャチャ。
「チャチャの新しいととさんのレンです。初めまして。」
「チーちゃんの2番目のお姉ちゃんのミツキッス。よろしくッス!」
「えーと、一番上の姉。で、いいのかな?サナです。」
「うふふ、サナのかかさんのサオリです。」
そんな具合にお互い自己紹介を経て、雑談タイムとなった。
と、いっても話の中心は娘たちで、私とサオリさんはそれを見守っている形だ。
バター飴の話や、それが無くなりそうという話から、サナが秘蔵の生キャラメルを分けてやる話など、姦しいが楽しげに話をしている。
「やっぱり会わせてあげることを優先して正解だったと思いますよ。」
サオリさんがそういいながら、近くのベンチに腰を下ろしたので、それに続く。
アリーチャ達の話からすると、この後、最終的にはネネの街に行き、そこで新しい生活をするのだそうな。
そこではベルタが探索者相手の宿屋で働くことになり、そこでは住み込みで仕事ができるらしく、ビーチェにエリオの面倒を見てもらい、アリーチャも手伝いが出来ればいいと張り切っている様子だ。
宿屋は大変にゃよー?と、チャチャがお姉さんぶりながらも心配するが、アリーチャは、これからは自分一番お姉ちゃんになるから、チャチャのように頑張らないと。と、思っているらしい。
ネネの街はここからだと2街先、町を含めると4町先なので、一般的には結構な長旅だ。
逆にいえば、それだけ離れれば、エディの手も、あるいは奴隷売買関係の官憲の手も及ばないだろうから、ベルタの身も、率いてはアリーチャ達の身も安泰だろう。
ネネはたしか人族が中心の街のはずだから、亜人族が多いこの街よりは、彼女たちにとって過ごしやすいかもしれない。
そんな事を考えながら、チャチャ達を見ていると、チャチャが財布代わりにしている小さな革袋をポシェットから取り出した。
「アリーチャ、違う街に行くのは、たいへんにゃし、新しい生活も慣れるまで、きっとたいへんにゃ。
だから、これを持っていくにゃ。」
そういって、革袋をアリーチャに手渡すチャチャ。
チャチャはお金を分けて持つようなことはしないから、あれが今の全財産だろう。
昨日の夕食時に話した内容から察すると、今までのチャチャに分け与えた稼ぎの他に、昨日からの稼ぎを私を抜いた4人で分けた分が入っているはずなので、ざっくり7金貨前後が入っている計算になる。
「お姉ちゃん、これ…」
「お金はあっても困らないにゃ。あと、これで旅の間、美味しいもの食べるにゃ。
きっと楽しいにゃよ?」
「!で、でも、こんなに…」
金貨など初めて見たであろうアリーチャが目を丸くしている。
「チャチャもこの街に戻ってくるまでに、ととさん達に美味しいもの、いーっぱい食べさせて貰ったにゃ。
だから、次はアリーチャ達の番にゃ。」
金額が大きすぎるためか革袋を返そうとするアリーチャの手を、そういって押し戻すチャチャ。
「お姉ちゃん、ちゃんと幸せだったんだね。良かった。」
「そうにゃ、チャチャは幸せものにゃー。」
涙をポロポロ流すアリーチャの頭を、優しく撫でるチャチャ。
「さ、馬車が動き始めてるから、そろそろ行くにゃ。」
「うん、お姉ちゃん、ありがとう。」
「ありがとー。」
「ありあと。」
アリーチャに続き礼をいって、今度は馬車乗り場の方へ駆け出すチャチャの弟妹達。
その途中でアリーチャが振り返る。
「お姉ちゃん、また会えるかな?」
「きっと会えるにゃー、大丈夫にゃー。次に会う時は、アリーチャがもーっとお姉ちゃんになった時にゃね?」
「うん、わたし、お姉ちゃん、頑張る!」
「うにゃ、頑張るにゃ!」
小さくガッツポーズをした後、大きく手を振って、改めて駆け出すアリーチャ。
チャチャはそれをずっと見守りながら、
「これでしばらく、お姉ちゃんはお休みなのにゃ。」
と、少し寂しげに呟いた。
サナです。
ちーちゃん、最後は少し寂しそうだけど、凄く喜んでました。
凄いなぁ、立派なお姉ちゃんしてたなぁ。
あたしも見習わなくちゃ。
次回、第六○六話 「シルバーへの道」
でも、ちーちゃん、全財産渡しちゃって大丈夫なのかな?
 




