第五九九話 「トラージの街3日目」
トラージの街3日目のスケジュールは、まずは海母神様の社に行って『遊泳の加護』を受けるところから始まった。
潮の流れからすると、今日は昨日よりも1時間近く干潮が遅く訪れるので、加護の時間も長いが、あまり迷宮に長居をして溺れないように。と、昨日とは別の蛇人族の巫女さんに注意を受けながら、ほどなく儀式は終わり、ここから私とみんなは別行動となる。
私は昨日の診察と治療の続き、ほかのみんなは授法の儀式を受けてから迷宮に入る予定なのだそうな。
考えてみれば、チャチャはともかく、ほかの三人は前回のお参りから、もう1~2レベル上がってるんだったな。
と、いうか、ミツキは昨晩上がったばかりか。
使い勝手の良い魔法を覚えることを私もお祈りしながら、一足先に社を後にした。
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午前中は昨日、娼館にいなかったお姉さん方の診察と、昨日診察した重症患者の治療がメインだ。
エグザルの街の娼館と比べて亜人族の割合が多いのは、やっぱりそういう性癖の人族が多く集まる街だからなのかと思ったが、普通に命の危機で発情する男の亜人族の利用者もそれなりに多いからだそうな。
亜人族は同種族同士なら、発情も受け入れ合う、おおらかさは持っているらしいのだが、多種族同士だと、その際、ちょっとのニュアンスの違いでトラブルを招くことになり、それがパーティー内だとパーティーの破局にも繋がるので、結局安全な娼館に来て発散させるのがセオリーらしい。
エグザルに比べて人族の割合が少ないトラージに、それなりの数の娼館があるのは、やはり、それなりの理由があるのだな。
まぁ、そんな風に真面目に考えていたのだが、途中、診察していたベテランのお姉さんに、「ちょっと前、異種族姦がブームになったことがあったのよ。」と、ぶっちゃけられて、単に性癖の性欲の問題に行き着くのか。と、変に納得してしまった。
亜人族が同族じゃなく人族を含めた別種族を抱きに来ることもあるし、逆に抱かれに行くお店もあるらしい。
淫魔法【夜遊び情報誌】で確認すると、女性向けのお店だと、むしろエグザルより数が多い感じがするな。
ちなみにそういうお店でも男が相手をするお店と、女性が相手をするお店の2種類が用意されているし、当然、男向けのお店でも、男が待っているお店も、それなりの数があるとのことで、トラージの街の奥深さをこんなところで実感してしまった。
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「調子はどうだい?」
「ととさん!」
「蟹が美味しいッス、蟹が。」
淫魔法【ラブホテル】で迷宮内の扉にショートカットして来た私の姿を見つけて駆け寄ってくるチャチャと、両手の人差し指と中指でチョキチョキと蟹のハサミのマネをするミツキ。
お昼時になったので、朝にサナが作ってくれたお弁当を迷宮内に届けに来たのだ。
「お父さん、お疲れ様。」
「サナもお疲れ様。」
チャチャに遅れて、駆け寄ってきたサナにメニューのアイテム欄から出したお弁当の包みを渡す。
「途中で飲み物も買ってきたから、好きなのを取っていいよ。」
「あら、ありがとうございます。」
ちょっと小首をかしげながら胸の前で両手を合わせるサオリさん。
濡れた衣服の部分が肌に張り付き、髪から頬や首に伝う海水の雫がセクシーだ。
いやいや、そうじゃなくて、濡れた状態というか、こうして地上部分で濡れた状態を感じながらご飯というのも中々に食べづらそうなので、ここは淫魔法【コスチュームプレイ】で、ちゃちゃっと乾いている装備に着替えでもらった。
周りの安全はレーダーで確認しているから、私服の方に着替えて、ゆっくり休んでは?とも提案したのだが、緊張が解け過ぎるのは良くないと、サオリさんに窘められたので、みんなどころか私まで戦闘装束でのご飯だ。
「で、なにか良い魔法でも授かったかい?」
「覚えた魔法の数は、やっぱりサナちーが一番多いッスけど、凄いタイミングで凄い魔法を覚えたッスよ?」
悪戯げにクイズを出すような顔でサナに視線を送るミツキ。
「あの、中級単発炎魔法を覚えちゃいました…。」
なぜか恥ずかしそうにうつむくサナ。
まぁ、確かにタイミング的には今かよ!って感じだが。
一応その他にもサナは石化解除魔法や防疫魔法なども覚えたらしい。
それからミツキは気絶治癒魔法を、サオリさんは目眩ましになる光魔法を覚えたとのことだ。
特にサオリさんの新光魔法は、敵を挑発するような効果があるらしく、おかげで新しい戦闘フォーメーションを開発しつつあるのだそうな。
海の中なので、一瞬チョウチンアンコウを連想してしまうが、サオリさんはそんなに丸くない。
あと、ちょっと私抜きでのフォーメーションに疎外感を感じてしまったのは内緒だ。
サオリです。
やっぱりこうして水から上がった状態で濡れていると肌寒さを感じてしまいますね。
レン君が着替えさせてくれて助かりました。
飲み物も温かいものばかりで嬉しいです。
次回、第六○○話 「チャチャの職業」
水の中だと、それほど肌寒さを感じないのは、やはり『遊泳の加護』のおかげなのでしょうね。




