第五十九話 「負け戦」
「いくら三祝の儀を交わした仲とはいえ、立場上そう簡単に話せる話ではないぞ?」
「私が救出対象についての情報を持っているとすればどうでしょう?」
「…本当だろうな?」
「『三祝の儀を交わした相手同士は決して裏切らない。』ですよね?」
「むう…、良いだろう、場所を替えるぞ。」
そういってロマはギルドの掲示板とはちょうど反対側にあるバーカウンターの方に歩いていくので着いていく。
バーテンダーというより執事長という方が似合うような初老で白髪オールバックの男に目配せすると、カウンターの横にある扉から中に入っていった。
位置的には階段の下に当たる部屋だろうか?
壁の雰囲気に溶け込むような意匠の扉で、ここまで近づくまで気が付かなかった。
ある意味、隠し扉の一種なんだろう。
部屋の中はちょうど今借りて居るシングルの部屋より気持ち大きいくらい。
畳でいうと四枚畳を横に並べたくらいの狭い部屋だ。
人並み以上に体格の大きいロマが一緒だと尚更狭く感じる。
中にあるのはホールにもある二人掛け用のテーブルセットが一式だけだ。
ロマに促されるまま奥の方の席に座らされる。
上座というより何かあったときに逃がさないためだろう、ロマが扉側の席に座った。
「で、何を知っている。」
「救出対象の身元。」
交渉の参加料として情報のチップを1枚出す。
「…それを知っている理由を聞くことはできるか?」
「私の口からは言えません。」
「ふむ。では、その情報を聞くために必要な条件は?」
「サナの安全を保障してください。あとはロマさんの考えている事との答え合わせを。」
ロマのチップに対してコールしてレイズする。
「良かろう。答え合わせが必要というのなら、まずは俺の考えから話そう。」
今度はロマがコールする。
「そもそもだ、人ひとり探すのに白金貨を出すなんて言い出すのは貴族くらいなものだ。
そして更に言えば貴族は普通その金額を額面どおり払うつもりは無い。
そういう奴らなんだ。
ほぼ確実に死体探しの依頼なんだよこれは。
死体1体に大金貨1枚、これくらいなら今まででもあり得ない話ではない。」
ロマは言葉を選ぶように話し始めた。
「ただ問題は依頼書に肝心の探索者タグの情報も割符の情報も無い事だ。
これだと探索者ギルドからすれば捜索対象が誰だか分からない。
百歩譲ってタグが無いのはありえるが、代わりになる割符の情報すらないなんてことは有り得ない。
迷宮に入るには受付を通り、そして誰が入ったかちゃんと確認するよう公社の指導でギルドが徹底してチェックしているからな。
ギルド側からすれば、迷宮にいるはずのない誰だか分からない人物を3人探すという依頼を出せ。という、無理筋を通された形だ。」
ロマがギルド側という言い方を強調しているということは、公社からの話なのだろうか?
「この依頼は公社からの依頼なんですか?」
「直接はではないが公社も無理筋を通された形だと聞いている。そこだけ取って考えても相手はお貴族様だろうよ。」
ロマは腕を組んで苦い顔をしている。
「いないはずの人間の死体が迷宮内で見つかったとなれば、しかもそれが貴族に連なる身分だとしたら、ギルドや公社の管理責任を問われたりしないのですか?」
「そこだ!それをギルド長は心配している。せめて生きた状態で見つかれば状況もわかるだろうが、さっきも話したようにこの依頼はほぼ死体探しだ。依頼書を貼らされた時点で既にもうこれはギルドの負け戦なんだよ。」
忌々しそうにドン!とロマがテーブルを叩く。
「おそらく別の誰かが何かの責任をギルドに擦り付けようとしているのでしょう。」
「なに?」
ロマがギラリとこちらを睨む。
「ロマさんの考えているとおり相手は貴族、いや下手をすると王族の可能性すらあります。なぜなら…」
「なぜなら?」
お前もカードを切れとロマが目で催促している。
「救出対象の一人は、ネローネ王国第13王子 ネブル・アリサリッサ・ネローネ殿下ですから。」
「ネローネの迷宮涸らしだと!?」
想像以上の大物だったらしくロマが立ち上がって驚いている。
「迷宮涸らしとはどういう意味ですか?」
ロマを落ち着かせる意味も含めて聞いてみた。
「ネブル王子の二つ名だ。ギルド内限定の噂話としてだがな。
公式には勇者召喚にすら成功した天才召喚術士だが、迷宮内で私的に大規模の召喚儀式を行い迷宮内の魔力を根こそぎ奪ったという疑惑が何度も上がっている。
証拠は押さえられていないので、あくまでも噂で済んでるがソレをされた後には迷宮獣の発生が減るという実害が出ている。
それでついた二つ名が、というより忌み名が『迷宮涸らし』だ。」
ロマが苦々しい顔でそう説明してくれた。
やっぱりあの王子様が勇者の召喚者か。
「死んでいてくれていればある意味朗報ではあるが、ギルドや公社が王家にどんな難癖つけられるかわかったものじゃないな。ほかの二人の身元も分かるか?」
ロマに促されたので残りの二人、公爵の公子と伯爵の公子の話もする。
「さすがに公子の名前までは知らんが家のほうはどちらも大物だ。
で、それを証明できる理由をレンは持っているのか?」
さて、どうするか。
全て本当の事を話すのは流石に危険過ぎる。
「証明できる理由を持っている人を紹介できますが条件があります。」
「いってみろ。」
「繰り返しになりますが、サナの安全確保。状況の説明はするように伝えますが、その話の中でサナもその人物も『死んだ者』として扱ってください。
その代わりに更に追加で提供できる情報もあります。あと鑑定スキル持ちが一人いると話が早いかと。」
「その人物も嬢ちゃん絡みなのか…分かった。ギルド長にそう取り図ろう。鑑定スキルは物品鑑定が必要か?それとも人物鑑定の方か?」
「人物鑑定の方で。」
「…大事になりそうだな。大き目の部屋を用意しよう。立ち会うのはギルド長と俺の二人。鑑定はギルド長が行い、その部屋で見た『死んだ者』のことは全て忘れる。これでどうだ?」
組んだ腕の右手で顎鬚を撫でながらロマがそう提案する。
さすがゴールドの探究者、話が早い。
「よろしくお願いします。あと、私とサナは立ち会えないことも了承してください。その人物からロマさんに声をかけるようにします。」
「いいだろう。時間と場所の指定はあるか?」
「では今夜0時にそこのバーカウンターで。その後の部屋はお任せします。」
「よし、決まりだ。」
ロマが立ち上がって握手を求めてくるので答える。
「もう一つだけ聞いてもいいか?」
「私の話せる内容でしたら。」
「勝てる戦になりそうか?」
「負けない戦くらいにはなると思います。」
お互い目を合わせてニヤリと笑う。
「それはそれは、次一緒に飲むのが楽しみだ。」




