第五八三話 「罰」
「これで終わりッスか?」
「ああ、これで終わりよ。」
先程まで出血が酷いチンピラ達を死なない程度に魔法で治療していたミツキとサオリさんが勝負がついたのを見て集まってきた。
「こんな罰で良いのでしょうか?」
「罰というか、仕返しね。大事な娘を泣かせた仕返し。」
そう、サオリさんに答えたとおり、これは罪に対する罰ではない。
復讐ともちょっと違うだろう。
頭にきたから殴りに来た。
シンプルに怒りをぶつけに来た。
そういう話だ。
とはいえもちろん、痛めつけてスッキリしたので終わりではない。
ヤクザという面子が第一の世界において、目下の者たちの前で煽られ、完膚無きまで叩きのめされる。
同じく力が全ての世界において、その力を奪われる。
エディがその事を痛感するのはこれからだろう。
だが、そんな事は知ったことではない。
エディが強者として弱者である化け猫化する前のチャチャを好きに扱ったのと同じ、今度はエディが弱者として虐げられてみればいい。
結果として命が奪われることもあったとしても、強者の理論を振り回していた者が振り回される側に回っただけで、それこそ自業自得だ。
「それじゃ、帰るッスかー。」
「あ、そっちから出るのは止めた方がいいわよ?」
「へ?」
建物の出口へ向かうミツキを引き止め、カウンター裏の厨房の方を指差す。
「巻き込まれても面倒だから、裏口からでましょう。」
▽▽▽▽▽
「レインさんがあの男の事を誰にも通報しない。っていった時には驚きました。」
裏口を潜ったとたん、サオリさんがそう話しかけてきた。
「あ、それアタシもッス。最初の予定だと勝負を受けないと通報する。みたいな話だったッスよね?」
淫魔法【夜遊び情報誌】も使いながらメニューのマップを頼りに歩みを進める。
「ああ、あれね。私はチクらないっていっただけで、通報されないとはいってないわ。」
「どゆこと?」
横に並んで歩いているミツキの頭には、はてなマークが浮かんでいるようだ。
「仕事熱心な人が一人いてね…。」
端的に説明してしまうと、娼館ギルドのスパイだった男が、声をかけた後も、すぐには逃げていなかったのだ。
少なくとも2階にいたエディ達と戦闘が始まるまでは、まだカウンター裏に隠れていた。
つまり、エディが違法奴隷売買の件に絡んでいることを聞いていたはずなのだ。
当然、その情報は娼館ギルドのマスターへと伝わるだろうし、亜人族の国であり街であるここで、人族特区の人間が亜人族の違法売買に絡んでいたとなると、これまた当然ただで済むわけがない。
元に今、30人を超える団体が先程までいたヤクザの事務所へと向かって来ているのがマップにも写っている。
まぁ、可能性としてはヤクザの応援という可能性もないわけではない。
エディが舎弟頭補佐だというのなら、舎弟頭より上、つまり執行部は今回誰も出てきていないのだから、ヤクザの援軍が来るという話もありえるだろうし、その上で更に国や街の役人なり衛兵なりが来る可能性だってある。
どちらにしろ、結局、巻き込まれないように裏口から逃げておくに越したことはないのだ。
「なるほどッスねー。」
「それじゃ、あの男は官憲に捕まって法の裁きを受けるのでしょうか?」
「捕まって法で裁かれるか、捕まらずに口封じにどうにかされるか。
どっちにしろ、明るい未来は無いと思いますけどね。
とりあえず、私達もこれ以上この姿を目撃されると後々面倒なので、さっさと元の姿に戻りましょう。」
性別を逆転させている【トランスセクシュアル】は魔法ではなく、発動に制限の強い種族特性なので、ベッドが無いと解除できないのだ。
まず向かう先は元チャチャが住んでいた家。
あそこのベッドをまた使わせてもらおう。
サオリです。
レン君はあの男の命を奪うことを躊躇してるのでなくて、因果応報の目に合わせるために、あんな面倒な方法を選んだのですね。
わたし、ちょっと誤解していました。
次回、第五八四話 「ご飯にする?お風呂にする?」
なぜか、ちょっとドキドキしてます。




