第五七九話 「続・三匹が斬る」
挑発に応じて一斉に席を立ち、こちらに向かってくるチンピラたち。
多勢に無勢なので囲まれるのは避けたいが、私とサオリさんは間合いの広い槍と薙刀。
お互い支障がない程度に離れた結果、サオリさんに奥の階段側のテーブルに座っていた4人が、私にカウンターに座っていた2人と、その前のテーブルに座っていた4人、いや、大男はもう倒したから3人の、合計5人が、ミツキの方にはテーブル席に2人づつ座っていた2組が向かってきている。
間合いで勝る武器とはいえ、手数は一定。
一斉にかかって押しつぶすという多対一のセオリーを守るかのようにテーブルに座っていた3人が思い思いの武器を手に取り迫ってくる。
が、そんなものは予想の範囲内。
>レイン=キュノミスの【双突】
殺してしまわないように右から二人を槍の石突でのスキル【双突】で捉え、ランク差や淫スキルの効果やらで派手にぶっ飛ばす。
人が真後ろに並行に二人も飛んでいく。という非常識な光景に一瞬気を取られた残りの一人のショートソードを槍で払い、肩を突き刺して無力化し、そしてそのまま振り返る勢いを使っての飛び回転蹴りでカウンターから来た男の側頭部を、着地と同時に突き出した槍の穂先でもう片方の男の肩を捉え、ほぼ同時に無力化する。
うーん、団体戦もだいぶ慣れてきたな。
一方、サオリさんの方だが、状況はほぼ一緒だ。
ロングソードを持った男たちが4人がかりで波が押し寄せるように一斉にサオリさんに襲いかかってきている。
サオリさんには私の【双突】のようなスキルは無いから大丈夫かな?と一瞬思ったが、ゆっくりとした構えからの薙刀での横一閃が男たちを捉える。
最初の構えがゆっくりだったせいか、全員剣を立てに構えて受け切った。
かのように見えたが、サオリさんの技量と業物の薙刀がそれを許さない。
右から2本までの剣は完全に真っ二つに切られ、3本目の剣の中程まで薙刀の刃が食い込んだかと思えば、右3人の胸元から派手に血飛沫が飛ぶ。
防御無視の斬撃かと思うほどの威力。
サオリさん、殺してないよね?
薙刀の刃はそのまま新たに翻り、今後は左からの逆袈裟がけで無傷の左の男から2人の足を切り裂き無力化していった。
『最悪、やりすぎても、サオリさんは回復魔法使えますから、大丈夫だと思いますよ。』と、いうアドバイスは不味かっただろうか?
一方、ミツキの方はといえば、これまた綺麗にチンピラたちを捌いている。
相手のロングソードをソードブレイカーで受け、そのまま絡め取り、剣を持っている側の肩をレイピアで一刺しし、そのまま薙いで相手の額の上を切り裂き、流れた血で視界を奪う。
と、いう流れを華麗に2セット。
器用なものだ。と思う間もなく、次の一人の剣をまた受け止めている。
あれ?もう一人はどこへ?と視界を巡らすと、何やらカウンターの横で小さくなって、こちらを手招きしている。
怖気づいたのかと一瞬思ったが、それなら手招きしているのはおかしい。
警戒しつつ近寄ると、「もしかして、レインさんですか?」と、【鬼族語】で話しかけてきた。
増援が来たら困るので手短に話しを聞くと、なんでも娼館ギルドのマスターから派遣されたスパイなのだそうな。
もしもこのヤクザの事務所に私たちが来たらすぐ報告するように言われているので、逃して欲しいと頼まれた。
淫スキル【性病検査】で調べたところ、レベルは12。
大勢には影響しないだろう。
「なんだ!なんの騒ぎだ!」
そんなことを考えていると、カウンターの上、吹き抜けの2階の踊り場から大きな声がした。
案の定、増援、いや、ひょっとしたらエディ本人かもしれない。
「裏口かなにかはあるの?」
「厨房の裏から出れるようになってます。」
「じゃぁ、そこからさっさと行きなさい。」
スパイだという男にそう告げ、返事も聞かずにホールの2階が見渡せる場所まで戻る。
「お前らどこの組のもんだ!?」
そうだよね、普通カチコミだと思うよね。と、【性病検査】。
ああ、やっぱりこいつがエディか。
金髪の優男で、歳は30歳。
レベル28の【拳士】だから、相当鍛えているようだ。
そういやギルドマスターの資料に書いてあったが『剛拳のエディ』という二つ名で呼ばれているらしい。
エディを囲むように左右に3人づつ男が寄り添っており、特に右側の3人はエディと同じく見るからに装備がいい。
ひょっとしたら探索者時代からのエディの仲間かもしれないな。
それはともかく、ようやくご本人登場だ。
ここは高らかに宣言させてもらおう。
「どこの組のもんだといわれたら、猫の組のもんだよ!違法奴隷売買の件で、お前をぶちのめしに来た。覚悟しな!」
ミツキッス。
ご主人様の方にたくさん行って助かったッスねー。
やっぱり女は狙い目だと思ったんスかね?
邪な思いもあったりして?
次回、第五八○話 「続続・三匹が斬る」
って、あれがエディッスか。
言われてみれば、チーちゃんの面影はなくもないッスね。




