第五七八話 「三匹が斬る」
「なんか久しぶりッスね。」
金髪ショートで小麦色の肌の細マッチョがそんなことを言いながら両手を上げて自分の身体の感触を確かめている。
「男の人の身体に慣れるまで、少し動かしておいた方がいいと思うわよ?」
「サオリさん、出来れば口調も男っぽくしてください。」
栗色ロングの長い髪を後ろで一つ縛りにしたがっしりとした青年姿でその口調は、ある意味強そうなのだが、違和感が凄い。
「…したほうがいいぜ?」
やっぱりちょっとぎこちないな。
「で、ご主人様はなぜに猫耳?」
ミツキの指摘どおり、私の耳には淫魔法【淫具召喚】で出した高級猫耳が鎮座ましましている。
色は淫魔の身体の髪色に合わせて白系のものだ。
「同じ怒鳴り込むのでも、同族を売り飛ばしやがったな?って乗り込む方が説得力があるでしょ?」
「なるほどッス。」
「そうですね…そうだぜ。」
うん、会話は私とミツキに任せてもらおう。
▽▽▽▽▽
「エディって男はここにいるかしら?」
門番、というより、宿屋の入り口にたむろしているように見えるチンピラ二人にそう話しかける。
実際に来てみると、ヤクザの事務所とはいえ宿屋そのものの作りだな。
「なんだテメェら?」
「兄貴に何の用だよ?」
デブの方のチンピラは上から覆いかぶさってくるかのような勢いでメンチを切ってくるが、痩せた方のチンピラは、私の後ろにガードマンよろしく立っているサオリさんとミツキを一瞥してから、そう聞いてきた。
180センチ近い身長で薙刀を持ち、怒りを隠そうともしないサオリさんを見て日和ったのだろう。
あるいは、たくさんの投げナイフ、いやクナイで全身武器庫みたいな状態のミツキを見て、ヤバい奴らが来たと思ったのかもしれない。
そう考えると猫耳で槍を小脇に挟んで語りかけている女性の私は可愛らしいものだ。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
「何の用といわれれば、まぁ、ぶちのめしに。」
「「なに?」」
男たちの口が開いた瞬間を狙って両方の人差し指をその中に突っ込んで種族特性【ドレイン】
粘膜からの吸収攻撃、いわば【真・ドレイン】が相手の魔力、精力、そして体力を根こそぎ奪い去る。わけにもいかないので、死なない程度に体力だけは残しておく。
力なく地面に突っ伏し、ぐったりと動かなくなるデブと痩せ。
「では、行きますか。」
「はい!」
「了解ッス!」
▽▽▽▽▽
入り口の扉を潜った瞬間、食堂のようなスペースに集まっている男たちの視線が一斉に集まる。
うん、建物は普通に宿屋だな。
一階が吹き抜けの食堂兼バーになっていて、二階への階段があり、そこから先は宿泊棟になっている。
念の為に淫魔法【夜遊び情報誌】で確認すると、3階建で最上階が事務所兼住居スペースになっているようだ。
「誰だお前ら。ここは四つ足が来るとこじゃねぇぞ?」
「発情期の相手ならしてやらんでもないがな?」
「マジかよ、お前、趣味悪いな。」
そんな事を話しながら下卑た笑いで盛り上がる男たち。
人数は、ひい、ふう、み…14人か。
淫スキル【性病検査】を使って、と…。
「ミツオ、全員1の無し無しだ。」
「了解ッス。」
「こっちだって、あんたらの相手をするのは願い下げよ。怪我したくなければエディを呼んできなさい。」
「あ?お前兄貴の女か?いや違うな、兄貴は猫が見るのも嫌なはず。」
ハゲの大男がそういいながら近寄って来て、顔を良く見たいのか私の顎を掴もうとする。
が、もうこの距離から息が臭いし、触らせるつもりも毛頭無い。
「がっ!」
短い声を発しながら股間を押さえ蹲り動かなくなる大男。
打ち下ろし型の金的から即【ドレイン】だ。
「このアマ!」
動かなくなった大男を見て激高した他の男達が一斉に席を立ち、腰の獲物に手をかける。
「もう一度だけ言うわ、エディを呼んできなさい。
さもなくば、全員切り捨てるわよ?」
その言葉を合図に、ずいっと前に出るサオリさんとミツキ。
薙刀を構えるサオリさんは弁慶っぽいイメージだが、そうなると片手にレイピア、もう片方にソードブレイカータイプのマン・ゴーシュを構えたミツキが牛若丸か。
「怪我をしたい奴から…」
「かかってくるッスよ!」
サナです。
ちーちゃん、晩ごはん何にしよっか?
ん?まだお勉強するの?
んー、煮込み物なら、ちーちゃんのお勉強見ながらでも出来るかな?
次回、第五七九話 「続・三匹が斬る」
多分みんな戻ってくるの遅いだろうから、少し凝ったものでもいいかも?




