第五七六話 「国立図書館」
「あたし、図書館初めてです!」
「チャチャもにゃー。」
「あれはいいもんスよー。」
図書館の受付で入場料を払っていると、後ろで三人娘のそんな期待に満ちた声が聞こえる。
ちなみに入場料は一人銀貨2枚なのでトルイリの街の図書館よりかなり安いのだが、人族は逆に6銀貨と、1銀貨ほど高い。
口には出さないものの、サオリさんも図書館には興味があるらしく、受付の横に貼ってある注意書きをブツブツと読んでいた。
「はい、みんなこれ。帰りに返さないとならないから無くさないようにね。」
割っていない割り箸を半分くらいの長さして色を付けたような入場証をみんなに配っていく。
受付の小鬼族のお嬢ちゃん、いや、たぶんお姉さんの話だと本を借りるときにも必ず必要になるとのことだ。
この図書館で借りられるのは一人当たり1冊。
期間は一週間までとトルイリと同じだが、アサーキ共和国で私たちはまだ正式にはカッパーの探索者でしかないので、複数を貸し出せるほどの信用は無いらしい。
図書館のゲートで入場証を虎人族のガードマンに見せて入場すると、まずは大きなホールに出た。
まるでギルドの食堂を思い起こさせるようにテーブルと椅子が並んでおり、その左手がカウンターになっていて、何人もの人が並んでいる。
どうやらあそこで本の貸し出しの手続きをするらしい。
ホールは吹き抜けになっており、コロッセウムの客席の代わりに本棚があるような配置で見渡す限り本だらけだ。
「これはどこから手をつけるか迷うな。」
「あそこに見取り図がありますよ?」
意外にもミツキではなくサオリさんに2階への階段そばの掲示板横の図面を指さされた。
なんでも入り口の注意書きにそういうものがあると書いてあったのだそうな。
▽▽▽▽▽
「ねこのマークにゃ。」
「亜人族の種族ごとにコーナーが別れているみたいッスね。」
「でも文字は【鬼族語】なんですね。」
三人娘が掲示板にかかれているアイコンや文字を読みながらそんな事を話している。
「なになに、『特に表記のない限り、書籍の言語は【鬼族語】となっております。』って、【竜人族語】じゃないんだ。」
竜人族の乙姫様が治める国だから、てっきりそれが公用語なんだと思ってた。
「うーん、それ、歴史の話になっちゃうんスけど、聞くッスか?長くなるッスよ?」
「是非。」
長くなるといいつつも、知識を披露したがっているような様子のミツキの説明を促す。
「今の公用語は人族との交易も考えて【大陸共通言語】ッスけど、かつての亜人族同士の公用語は【鬼族語】、【竜人族語】、【天狗族語】の3つだったッス。
で、そのそれぞれが地母神様、海母神様、天父神様系列の亜人族の公用語になっていたッス。
で、海母神様系列の亜人族は基本的に水の中の生活なのと、天父神様系列の亜人族は天狗族とかを除けば手が羽ッスから、文字を残す文化があまり発達しなかったんスよ。
この3つの言語は、元々一つの【古代共通大陸語】っていう言語だったので、単語の種類を除けば、そのまま会話も出来ないことないッス。
そうっすね、感覚的には方言みたいなもんスね。
アタシの場合でいうと、【古代共通大陸語】が訛って【鬼族語】になって、それが更に訛って【兎人族語】になっているみたいな感じッス。」
ミツキが水を得た魚のように丁寧に説明してくれた。
【古代共通大陸語】って授法の儀式でサオリさんとかが唱えている言語だったか。
「【大陸共通言語】と、たとえば【鬼族語】はだいぶ違うのかい?」
「両方とも【古代共通大陸語】から別れた言語ッスから、似てはいるッスよ。
感覚的にいうと、【鬼族語】が方言なら、【大陸共通言語】は畏まった言い方、みたいな感じッスかね。
文字は違うので、その辺りは面倒ッスけど。
ともかく、そんな訳で地母神様の系列の亜人族の記録は公用語だった【鬼族語】で書かれたものが多かったので、アサーキ共和国が出来てからは他の種族も初期はそれに合わせたり、逆に小鬼族が各種族から聞き取りで書き起こしたりしてた関係で、亜人族の中で文字関係は未だに【鬼族語】が主流なんスよ。」
思ったより本当に歴史の話だった。
「ミツキちゃん、まずはどこへ行けばいいと思う?」
「個人的には全部見て回りたいッスけど、今日はチーちゃんの勉強用の本を探しに来てるッスからね、時間もそんなに無いッスし、今まで読んでいた本の【鬼族語】版を探すッスよ。」
子ども用の絵本や図鑑となると、1階の手前の方みたいだな。
「うにゃ、チャチャ、頑張って勉強するにゃ!」
ミツキッス!
うーん、ここに住みたいッスー。
今は一人1冊しか借りれないッスけど、シルバーになったら3冊までいけるんスよね?
一段落したらここの迷宮に通ってランク上げしたいッスね。
次回、第五七七話 「チャチャのお留守番」
いや、本だけじゃなくて、パパの身分証明としてもあった方がいいと思うんスよね。
ほら、ここ亜人族の国ッスから。




