第五七二話 「トラージでの朝」
「ととさん、はなしてにゃぁー、チャチャも朝ご飯作りにいくのにゃぁー。」
うーん、なんか枕が暴れている。
「うにゃぁ、下からにゃら……ぷは、成功にゃ!」
あれ、まくらまくら…。
おお、枕、柔らかい、温かい……。
「あ、あの、レン君?……もう、しょうがありませんね、よしよし。」
ん?頭を?撫で…ぐぅ…。
▽▽▽▽▽
「…パパ、ママさんといつまでもいちゃついていないで、起きるッス。朝ご飯ッスよ。」
ん?ミツキの声?
いちゃつく?何が?
私はただ枕に顔を埋めて……
「……お、おはようございます。」
「おはようございますレン君。よく眠れたみたいですね。」
そういいながらも慈愛顔で頭を撫でるのを止めないサオリさん。
うぉー、やらかしたー!
▽▽▽▽▽
「かかさん、ごきげんにゃ?」
「うふふ、そう?」
チャチャから焼かれたトーストを受け取りながらサオリさんが微笑む。
「ええと、バターとじゃむを塗るんでしたっけ?」
サナが苺ジャムの瓶を手に取りながらそう語りかけてくる。
前になにかの時に電子レンジの使い方の話になって、トースト機能の説明をした時、ミツキも加わって、今度試してみる。というような話になったような記憶があったのだが、それが今朝だったようだ。
まぁ、なにより市場でジャムを仕入れたのが大きいのだろう。
ミツキにはともかく、サナにとってはジャムは朝食というより、分類としては、おやつとかお菓子の類なのだろうか、いまいちぎこちない。
「ってことは、今朝の朝食はミツキがメインだったのかい?」
「そうッスよ?サナちーには途中からチーちゃんの新しい勉強を見て貰ってたッス。」
ミツキがそういいながら、チャチャのトースターにジャムをたっぷり乗せて伸ばしている。
「新しい勉強?」
「うちの公用語は【鬼族語】ッスからね。【大陸共通言語】の読み書きを一旦お休みして、そっちをサナちーにお願いしたッス。
今後はママさんにもお願いするッスよ。」
「はい、わかりました。」
そう快諾しながらサオリさんが頷く。
確かにこれからもチャチャが一緒で、今後の行き先がサナの故郷となれば、読み書きはともかく、ある程度は【鬼族語】に慣れておく必要があるか。
さすがミツキだ。
「本当は【鬼族語】で書かれた絵本とか辞典とかあるといいんスけどね。
トルイリの図書館にそろそろ借りた本返さなきゃいけないんスけど、あそこにそんなのあったッスかねぇ?」
塗り終わったトーストをチャチャに手渡し、指先についたジャムを舐めながらミツキがそう考え込む。
「この街にはないの?図書館。」
「どうだろ、後で探してみよう。」
サナの問いに咄嗟に淫魔法【夜遊び情報誌】を使うところだったが、淫魔法【ラブホテル】で繋いだ部屋の中では意味がないので、朝食が終わったら外で試してみよう。
「あと、御宮も行きたいです。」
「そういやタツルギの御宮行った後からレベル上がってたッスね。アタシも行きたいッス。」
小さく手を上げてのサオリさんの提案にミツキも乗ってくる。
「あとはウルーシの街方面の馬車の状況確認ってとこか。日中は結構やることあるな。」
「お父さん、探索者ぎるどの方は行かなくてもいいの?」
「あー、直接の用事はないけど、確かに部屋の出入り口をギルドの宿に繋いでおいた方が何かと便利か。」
サナからトーストを受け取りながらそう答える。
「そこからなら手分けできるッスね。」
「そうだな。」
ミツキの提案にそう頷く。
日が暮れる前に、やることをやっておこう。
サナです。
朝から甘いもの……んー。
お汁粉とか考えれば、ありなのかなぁ?
それはそうと、思ったよりちーちゃん、【鬼族語】が分かっててびっくりです。
なんでも、あたし達が、たまに話しているのを聞いていたからだそうです。
次回、第五七三話 「海の宮」
気を抜いた時に【鬼族語】で話しちゃってたのかな?




