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第五六九話 「チャチャ」


 「最後にエディについて聞かせてもらおう。奴は普段からチャチャに対してどう接していた?」

 「それは…」


 備え付けのタオルで涙を拭きながらベルタがポツポツと話し始めた内容は、決してサオリさんたちに聞かせられるような内容では無かった。


 本当に一人で来て正解だったな。


 「はー、大体わかった。」

 「はい、これで全部です。出来れば娘たちだけは辛い思いをしないようお願いいたします。」


 そういって握った両手を揃えて差し出すベルタ。


 私のことを完全に捕まえにきた役人だと思っているようだ。


 「私にそんな権限はないよ。私は今のチャチャの保護者で、チャチャを親元に帰すべきかどうかの判断をするために話を聞いているだけだ。」


 「えっ?」


 「聞いた内容からすると、エディの元には帰せない。かといって…」

 「…はい、わたしでは娘たちで精一杯でチャチャを養うことは出来ないです。それに…」

 「それに?」

 「忙しさにかまけて、またチャチャを()()してしまわないとも限りません。」


 気持ちが整理できたのか、それとも今捕まるわけではないと思い、安心したのかベルタの顔は憑き物が落ちたようにさっぱりとしていた。


 「チャチャは…あのは、今、どうしているでしょうか?」

 「午前中までは笑っていたよ。今は引っ越されて、もぬけの殻になった我が家を見てショックで寝込んでいる。」


 再びベルタの表情が沈む。


 「…わたしが言えた義理ではないのは百も承知ですが、どうかチャチャをよろしくお願いします。

 たぶんわたしではあの娘の心からの笑顔を取り戻すことは出来ません。


 わたしはいくら恨まれても構いません、でも…でも、もしも許されるのであれば、いつか、娘たちはチャチャに合わせてあげて欲しいです。

 あの子達には罪はありませんし、チャチャにとても懐いていましたから…。」



▽▽▽▽▽



 「お父さん、おかえりなさい。」

 「レン君、どうでした?」

 「パパ、疲れた顔してるッスね。」


 淫魔法【ラブホテル】の別荘に戻るなり、そんな三者三様の出迎えを受ける。


 「チャチャはどうしてる?」

 「まだ寝てると思います。起こしちゃ駄目だと思って寝室の方には近づいてませんから、たぶん。ですけど。」


 そういいながらサナが寝室の方へと視線を向けたその時、


 「ととさん?」


 ちょうどチャチャがよろけるようにして台所を通じ居間へとやってきた。


 「起きたか。チャチャ、こっちへおいで。」

 「…あい。」


 とぼとぼと重い足取りでこちらへ歩いてくるチャチャをみんな心配そうに見つめている。


 「にゃっ!」


 なんにもない場所で蹴躓けつまずいて転びそうになったチャチャをそっと抱きかかえ、自分の前の床へ座らせ、そして自分も向かい合うようにしてあぐらをかく。


 猫耳をイカ耳にして、まるで怯えたような様子のチャチャ。

 しかし、意を決したかのように恐る恐る上目遣いで言葉を紡いでいく。


 「チャ、チャチャは……捨てられたのにゃ?」

 「いいや、チャチャはととさまに売られたんだ。」


 「レン君!」

 「お父さん!」

 「パパ!」


 その言い方はないんじゃないかという女性陣の言葉を手で制する。


 「…売られたのにゃぁ。チャチャ、髪の毛だけじゃなく、全部売られたのにゃぁ…。」

 肩を落とし、伏し目がちにそう呟くチャチャ。

 涙は枯れ果てたのかもう流れてはいない。


 「チャチャはもういらない子なのにゃぁ。帰る場所もないのにゃぁ…」

 「そんな訳あるか!!」


 思わず荒げてしまった声にチャチャがビクンと身を震わせる。


 「チャチャの帰る場所はここで、チャチャをいらないなんて思っている人はここには一人だっていない!」


 思わず叩いた私の胸に視線を向け、そしていつの間にかチャチャを囲むように座っているサオリさん、サナ、ミツキの顔を見渡すチャチャ。


 みんなそのチャチャの視線を受け、笑顔で静かに頷いている。


 「うちの子におなり、チャチャ。みんながそれを望んでいる。」

 「と、ととさん…」


 宙を藻掻もがくようにして手を伸ばすチャチャを抱き寄せ、そのままあぐらの中へと座らせる。


 「返事は?」

 「はいにゃぁ…チャチャ、ととさんの子になるにゃぁ…。」


 ミツキッス。


 そうッス!それッス!

 最初からそうすれば良かったんスよ!


 本当の親元だけが幸せじゃないッスよ、愛してくれる人の元こそが本当の居場所だとアタシは思うッス。


 次回、第五七○話 「チャチャの願い」


 良かった…本当に良かったッス…。

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