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第五六七話 「ベルタ」


 チャチャの義母になったベルタは人族特区の出身である。


 いわばスラム街ともいわれる同区から成り上がるために若者が選ぶのはやはり迷宮関係の仕事だった。


 ベルタは運良くその中でも探索者ギルド食堂のウエイトレスとして雇われ、エディと知り合うことになる。


 やがてエディが人族のリーダーとして人気を集めつつ、シェーラが妊娠のため一時探索者を休業していた頃、それはちょうどエディの女遊びが派手になっていた時だが、その時から二人は愛人関係にあったといわれている。


 その後その関係はシェーラが迷宮での()()で亡くなるまで続き、小さいチャチャのためという理由で、エディがシェーラを再婚相手にするまで続いた。


 そこから二人にとっては順風満帆な生活が続き、1年もたたずにベルタはエディの娘を出産する。


 この頃はまだチャチャはエディの長女としてベルタにも可愛がられており、探索者街に近い貸家での生活を続けていた。


 ところがそこから1年も立たずに事件は起こる。


 シルバーの探索者としてパーティーで街の任務を行っていたエディ達が強姦事件を起こしたのだ。


 彼らは酒の席であり、あくまでも相手から誘われたと主張したが、発情期でもない時期に、かつ2人の亜人族の娘を4人の人族の男が代わる代わるという状況では、それを認めるものはおらず、犯罪奴隷にまではならなかったものの、多額の賠償金を払い、探索者の登録は抹消され、アサーキ共和国内での探索者としての活動は不可能となり、人族特区へ堕ちることになった。


 幸いにして特区ではその探索者で鍛えた腕っぷしを買われて、地元のヤクザの舎弟となり、現地で借金取りや、みかじめ料の回収などの仕事が住む場所と共に与えられた。


 ここで転機となったのは強姦の犠牲となった亜人族の娘の中に、シェーラと同じ猫人族の娘がいたことである。


 エディはこの転落人生を猫人族のせいだと逆恨みをし、以後チャチャに冷たく当たることになり、また、それはベルタも同じであった。


 特にベルタは第二子である息子を妊娠中の事だったのに加え、猫人族に嫉妬に近い感情をも抱いたのか、以後、チャチャを娘とも認めず、自分の娘たちにも姉とは呼ばせないように徹底したとの情報がある。


 数年後、ベルタにとっての第三子である娘が生まれた頃には、既にチャチャは良く言えば家政婦、悪く言えば奴隷のような扱いであったらしい。


 朝早くからろくな食事も無く宿屋へ仕事に出かけ、夜には酒場へ仕事へ行くベルタの代わりにまた子ども達の面倒を見るという生活に加え、たまに帰ってくるエディからは気まぐれなのか気晴らしなのか分からない暴力を受け、それは酔って帰ってくるベルタからもままあったようだという。


 それでもチャチャ自身は妹たちのためと文句もいわずに働き、また、父義母ちちははの変節は、自分が何か悪いことをしたためだと思いこんでいる様子だったとチャチャが働いていた宿屋の主人は言っていたそうな。


 また、その宿屋にはしょっちゅうエディもベルタも訪れ、なんらかの理由をつけてチャチャの給金やチップを回収いていくと共に、チャチャの仕事が優遇されないよう、釘を差していくのだそうな。


 そんな生活が何年か続いた後、今から2週間ちょっとほど前にチャチャが突然人族特区から姿を消す。


 時期を同じくして急にエディやベルタの金使いが荒くなったとの情報が入っている。


 裏の情報筋からの話によると、二人はチャチャを経済奴隷として流しの奴隷商に売ってしまったようだとのことだ。


 未成年の児童の販売・奴隷化は違法な上、それでなくても我が子を経済奴隷として売るのはアサーキ共和国では犯罪では無いが恥ずべき行為であり、法的にいえば親権は剥奪される。


 しかし、二人と子どもたちの裕福な暮らしは一瞬だった。


 奴隷売買のことがエディの上司にバレ、チャチャの代金として手に入れた金の大半をヤクザの組に上納することになってしまったのだ。


 その代わり、エディは組の舎弟頭補佐という地位に就いたので、本人自体はそう悪く思っていなかったようだ。


 ある飲み会の席でも、「なに、金に困ったら()()()()()()()んだから、また売ればいい。そうすれば俺もまた上に上がれるだろう。」と、話していたとの記録がある。


 それを伝え聞いたベルタはエディから逃げようとしたようだが、紆余曲折を経て、ベルタが娼婦に身を落とし、その代金をエディが受け取ることにより離婚を許され、今は、かつての住まいを引き払い、エディは組の事務所に住み込みで生活をしており、ベルタは人族特区で娘たちと生活しつつ、探索者街の娼館で働いているとのことだ。



▽▽▽▽▽



 「…これはなんですか…チャチャちゃんが何をしたというのですか!」

 「そうッスね、読む限りチーちゃんが悪いところないッスよね。」

 「こんな事…どうして出来るんですか?」


 三者三様の感想がサオリさん達から漏れる。


 私は深く深呼吸をし、大きく息を吐いた後、


 「とりあえず、私は娼館に行ってきます。」


 そう宣言した。



 サオリです…。


 どうしてですか?どうして子どもに、娘にそんな酷いことが出来るんですか?


 人族はみんな…いえ、そうじゃありませんね、たぶんこれは特別な事、特殊な人の事だと思いたいです。


 次回、第五六八話 「ぱたあめ」


 でも、こんなことが許されて良いのでしょうか?

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