第五六一話 「特区」
「ママさんの角は、やっぱ帽子で隠すしかないッスね。」
ミツキのアドバイス通り、前にミツキのうさ耳隠しにも使った、つばひろの帽子を淫魔法【コスチュームプレイ】を使ってサオリさんに被せる。
黒のハイネックノースリーブニットに白のハイウエストワイドパンツというスタイルに合わせて色はモノトーンのものを選んでみた。
「どうでしょう?」
「良いと思いますよ。」
相変わらず身体のラインが出るお嬢様風のスタイルは帽子も含めサオリさんに良く似合っている。
「ミツキはパーカーの方でいいのかい?」
「そうッスね。それが手堅いと思うッス。」
同じく【コスチュームプレイ】でミツキとそれからサナにも服を出して着せる。
パステルブルーの薄手のニットにパンツはサロペット、そしてその上ににパーカーを組み合わせた久しぶりの双子コーデだ。
「サナのそれも久しぶりだね。」
「えへへ、一応念のためにつけておきました。」
サナの頭を飾り、逆に角を隠すカチューチャがひどく懐かしく感じる。
「ねねさんとねぇねおそろいにゃね?」
「そうッスよー。どう?チーちゃん、耳見えてない?」
「チャチャからはちょっと見えるにゃぁ。」
ミツキがチャチャに聞きながらパーカーのフードの角度を変えている。
「いや、たぶん大丈夫だよミツキ。チーは下から見上げるから見えるだけで、私くらいの高さの目線からなら十分うさ耳は隠れてる。」
「そうですね。わたしから見ても大丈夫です。」
私の意見にそうサオリさんも同意してくれた。
ちなみに私の格好はというと、流石にいつもの作務衣風鬼族の種族衣装というわけにもいかないので、ベージュのカーゴパンツに白のサファリシャツという手抜きコーデで済ませてある。
「こんなところかな?」
「はい。」
「大丈夫だと思うッス。」
「レン君、やっぱりわたし、上にもう一枚羽織った方が…」
「お着替え終わりにゃあ?」
人気のない路地裏とはいえ、あまり長い時間いるのも目立ちそうだし、暗くなる前にそろそろ移動しなおそう。
▽▽▽▽▽
結論からいってしまえば、着替えをして亜人族だというのを隠しているにも関わらず目立ってしまっている。
理由は単純に身なりが良すぎて浮いているのだ。
いや、逆か。
街中で買えたものだけで揃えた服であっても高級そうに見えるくらい、この地区が荒廃しているのだ。
いわゆるスラム街というものに該当するのだろう。
今まで訪れた場所の中でイメージに近いのは、チャチャ達を攫った奴隷商を尾行していた時に行ったエグザルの街の歓楽街の奥を抜けたところが雰囲気として近い。
それどころか、ある意味そこよりも荒廃している、いや、貧困のまま停滞しているような印象を受ける。
歓楽街の奥も荒れてはいたものの、賑わっているところ、秩序だっているところとの温度差、あるいは光と影のような立ち位置で、そのボーダーラインもそこにいる者も時間帯だったり、懐の事情だったり、様々な要因で位置が変わりうるような場所だった。
しかしここは違う。
壁があるわけでもない、塀があるわけではない、柵すらない、それなのに明確に隔離されているかのように街中とは雰囲気が、臭いが、空気が違い、お互いがお互いを拒絶しているかのように違い、そしてそのまま停滞している。
泥沼にでも踏み込んだかのような町。
一言でいえばそんな場所なのだ。
▽▽▽▽▽
腐肉にたかる蝿のように金と女を求めたかってくるスリや男どもをいなし、ときには物理的に排除しながらこの地区の海側へと向かっていく。
チャチャの両親は漁港関係の仕事をしてるという話を聞いてあったのと、チャチャ自身も海からそう遠くない宿屋で働いていたとのことなので、そちらの方に向かっていけばチャチャの見覚えがある道や町並みに出るのでは?と思ったのだ。
幸いにして港が近くなるにしたがって町の雰囲気は少しだけだが明るくなり、また活気が出てきている。
どうやら夕暮れ時だというのに港ではまだ船から荷物を積み下ろししている人たちで賑わっていようだ。
サオリです。
結局レン君にカーディガンを出してもらうことになりましたけど、こんなに男の人に絡まれたの初めてです。
今思い出してもゾッとします。
ミツキちゃんが今日は子どもっぽい格好で正解だったっていってましたけど、ミツキちゃんもいつもみたいな快活な格好だったら、もっと大変だったと思います。
次回、第五六二話 「帰宅」
それにしても子どものスリにはそれがたとえ人族であっても心が痛みますね。




