第五五九話 「トラージ卸売市場」
馬人族の運ちゃんを含めて3人の商人分の荷物を指定の場所に降ろす、というかアイテム欄から取り出さなきゃならないので、その間みんなは見物か、どこかで休んでいるように話したのだが、せっかくだからというので見学がてら全員ついてくるらしい。
なんとなくみんなも離れ離れになる寂寥感を感じているのかもしれない。
とはいえ、見るもの全てが珍しいらしく、特にサナなんかは、あれこれ目移りするかのようにキョロキョロと通りすがりの店先に目を輝かせている。
料理する人にこの多種多様な食材の群れは、たまらないものなのかもしれない。
ところどころ足を止めては、はぐれないように手を繋いでいるミツキに引っ張られていた。
ちなみにチャチャはサオリさんと手を繋ぎながら私のすぐ後ろをついて来ている。
▽▽▽▽▽
荷物をアイテム欄から出すこと自体は全然時間がかかるものではないので、むしろ人や手押しの荷車を避けながらの移動の方が時間がかかった。
食材の区画は馬車の乗り入れが禁止なので、大八車みたいな荷車がひっきりなしに走っているのだ。
で、場内は荷物をこの大八車で運んでもらうのもお金がかかるらしく、自分で運ぶのも大変らしいので、1台分でも運搬者に運んでもらえるのはラッキーだと商人たちが口々に感想を述べていた。
馬車の警備に雇われていたシルバーの探索者は、この場内運搬も仕事のうちらしく重そうに荷車を引きながら私達の更に後ろをついて来ている。
一応、この二人が場内を通りやすいように道を広げるため、女性陣には手を繋いで広がって歩いて貰っている部分もあったりする。
この市場は大きくわけて野菜や果物を扱っている青果棟、肉類や乳製品などとその加工品を扱っている食肉棟、魚類やその加工品を扱っている水産棟、米や麦、豆などを扱っている穀物棟の4つの建物に分けられている。
その中にも味噌、醤油などの発酵系加工品や乾物を扱っている区画や、市場利用者用の食堂のような施設、おお、花屋というか種苗も扱っている区画もあるみたいだな。
と、あまりキョロキョロしていてはサナの事をいえなくなってしまう。
お仕事、お仕事。
▽▽▽▽▽
「お父さん、里にお土産を買いたいので、少し市場を見ていってもいいですか?」
荷物を全部出し終わり、報酬を貰ったタイミングで、サナが胸の前で手を合わせながら、そんなお願いをしてきた。
今買わないでも、この街を出る際にもう一度この市場に寄ってもいいんじゃないかと思ったのだが、商人達の話だと、どうやらこの市場は誰でも簡単に入れるというものではないらしい。
そういや馬人族の運ちゃんも場内に入る時に、何か認識票みたいのを係員に見せていたっけな。
おそらく商人ギルド加盟員の証かなにかなのだろう。
私達はその従業員ということで入場させて貰っている立場のようだ。
それなら確かに今しか買うタイミングはないか。
パターン的に探索者でもシルバー以上の認識票見せれば入れそうな気もするが、さすがにそのためにこの街で位を上げるのは気が長過ぎる。
「里には行商人さんが持ってこないようなものも沢山売ってるようなんです。」
そうサオリさんもサナに続く。
族長、いや元族長もそういうのなら、里にとっては相当価値があるものが多いのだろう。
そういうことであれば、と、元々貰う予定ではなかった昨日と今日の護衛代金分に金貨も加えてサナに渡す。
どうせアイテム欄に仕舞えば鮮度が下がることもないのだから買える時に買っておこう。
「こんなにいいんですか?」
金額を見たサナとサオリさんが、そういって申し訳無さそうにこちらを見るが
「家じゃなくて里へのお土産ならそれくらいあった方がいいでしょう。
サナのおばあちゃんには私も聞きたい事もありますし、投資みたいなもんですよ。」
と、答えると納得して貰えたようだ。
なぜか横でミツキもウンウンと頷いており、その更に横で分かってなさそうなチャチャも真似をしてウニャウニャと頷いている。
▽▽▽▽▽
サナやサオリさんが買い付けたものは、やっぱり鮮度的な条件で行商が里に持ってきづらいもの、たとえば海の魚介類や運送の際に痛みやすそうな果物類、レタスのように生で食べる用の葉野菜などが中心だった。
前にサナが氷魔法で似たようなことをしていたが、基本的に冷凍、冷蔵技術が無い世界の上、運搬技術も発達していないからしょうがない。
ちなみに生き物はアイテム欄に仕舞えないので、生きた海老や蟹は泣く泣く諦めてもらった。
それにしても、おがくずに詰めた海老とか久しぶりに見たな。
サナです。
すっごいですー。話には聞いていましたけど、すごいですー。
お肉は前にだいぶん分けて貰いましたから十分ですけど、普段は大抵、干し物か塩漬けですから、お魚や貝類なんかは里のみんなも喜んで貰えると思います。
それから珍しい果物もたくさんありました。
次回、第五六○話 「帰路」
あと、海老。蟹はともかく海老はー、生海老はー。




