第五五一話 「宿屋にて」
「白玉ぜんざい、かな?」
「ラルの町は、あんこのお菓子でも有名なんですよ。」
サオリさんがそう解説してくれるが、先程よりは若干テンションが低い。
なんとなく、ぜんざいに入っていたのが餅ではなく白玉だったからだろうな、というのが今までの付き合いで分かってしまう。
あんこのお菓子が有名ということは、小豆が収穫出来て、甘さは流石に麦芽糖ってことはないだろうから、何らかの方法で砂糖を入手する方法があるのだろう。
サトウキビは流石に無理だろうから、砂糖大根でも栽培してるのかな?
意外とこっちの世界でも甘いものが手に入る理由が分かったような気がする。
「煮たお豆にゃ?」
「甘いから食べてごらん?」
豆が甘いという感覚がピンとこないのか、サナに促されてそろそろとスプーンで白玉ぜんざいを口に運ぶチャチャ。
「美味しいにゃ!」
「これは別腹ッスね!」
甘味に喜ぶチャチャの横で舌鼓を打つミツキ。
サナやサオリさんも笑顔でその後に続いている。
私も、と思うのだが…。
「あれ?お父さん、食べないんですか?もしかして嫌いとか?」
「いや、あんこは実は地味に好物なんだけど、ちょっと急用を思い出してね。
悪いけど皆で先に食べていて欲しいのと、あとこれを。」
サナの問いにそう答え、支払い用の財布を預ける。
「食べ終わったら女将さんにお礼をいって支払いもしておいて欲しい。」
「はい、わかりました。」
サナの答えに頷き、こちらに向かってくる男たちの横をすり抜け、外へと向かった。
▽▽▽▽▽
「レン・キュノミスだな?」
「ああ、そうだが。」
「痛い目に合いたくなければ、大人しく俺たちについてきてもらおう。」
宿屋から外に出るなり、出てきた宿屋から折り返してきた白人族の男たちが私を取り囲む。
人数は3人、淫スキル【性病検査】で鑑定したところ、レベルは上が19で下が16だ。
道中の狼より多少強いくらいだな。
「はいはい、痛い目は嫌だからついていくよ。」
そういって小さく両手を上げる。
先程まで一家団欒中だったので、服もいつもの作務衣風、いかにも丸腰に見えるだろう。
「お?おう、素直じゃねーか、よし、ついてこい。」
ついていった先は敵も人数も増えるだろうが、今は何よりサナ達からこいつらを引き離したい。
そう思いながら私の言葉に拍子抜けした様子の髭の男の後ろを黙ってついていった。
▽▽▽▽▽
着いた先は共同の馬車置き場だ。
馬用の厩舎が隣接しており、馬車が行き交う関係でかなり広く、馬糞や根藁を積み上げるスペースが臭う関係で民家や商家から遠く、人気が少ない。
おそらく今みたいな夜なら警備用の管理人が何人かいるくらいだろう。
私を取り囲む男たちは9人まで増えている。
手分けして探していたのが合流したんだな。
「で、ご用件は?財布なら娘に預けてしまったから持ってないぞ?」
また小さく手を上げながら軽くジャンプして見せる。
不良に絡まれていた遥か昔を思い出して、ちょっと懐かしくなった。
「そこの馬車に乗って貰おう。手足に縄と目隠しはさせて貰うが協力的な内は身の安全を保証しよう。」
先程の髭の男が顎をしゃくって示した馬車を一瞥する。
あまり豪華ではない4人乗りの箱馬車だが、中に既に一人乗っているのが私には分かる。
「断る。」
「あ?」
「断る。といったんだ。ネローネ帝国まで馬車で拉致監禁なんてのは、身の安全のうちにはいんないんだよ。」
馬車の中にいるマユコ=カタギリにも聞こえるようにそう宣言すると、作務衣の上を翻すようにして脱ぎ、それを目隠しに淫魔法【コスチュームプレイ】で装備を整える。
さて、さっさと片付けて白玉ぜんざいを食おう。
サナです。
白玉ぜんざいは美味しいけど、お父さんの事が気になります。
んー、ご飯の前にみんなに相談事があるっていってたのに一人で出ていくなんて、また何かあったんだと思います。
次回、第五五二話 「馬車置き場にて」
え?ミツキちゃんも、やっぱりそう思う?




