第五三七話 「お土産」
対してサナは家族というものに対して良いイメージしかないのか、チャチャが家族の元に戻ること自体は賛成で、サオリさんもチャチャ自体の扱いは不穏に思っているものの、基本的にはサナと同意見だ。
私としても、チャチャが家族の元で幸せになって欲しいという願いはある。
だが、チャチャが今の家族の元で幸せになれるか?という問いになら、それは難しいだろうとしか答えられない。
ただ、実際に会ってみないと判断がつかない部分は当然あるだろうし、私自身もチャチャに愛着があり、別れたくないという気持ちもある。
そんな考えもあってミツキの問いには答えられないまま、サナ達が戻ってきた。
「お待たせしましたー。」
「ちょっと買いすぎてしまったかも?」
「おかえりッス。ん?チーちゃんは何を買ったッスか?」
「ぱたあめにしたにゃ。」
ぱたあめ?綿あめ?
「ばたあ飴ですよ。」
「ああ、バター飴か。」
サナの通訳でようやく分かる。
というか、チャチャの持っている白い小さな麻袋に『バター飴』と書いてあった。
北海道土産の中で遥か昔は定番だったお菓子だが久しぶりに見たな。
おそらく飴の白さをこの温泉街の街並みに見立てたお土産といったところなんだろう。
そんなことを考えていると、チャチャが中から私とミツキに一つずつバター飴を分けてくれた。
「あい。」
「ありがとッス。」
「ありがとう。」
バターの元になる乳の種類が違うのか、はたまた砂糖の原料になる作物が違うのか、過去に記憶していた味とは違う味なのだが、中々悪くない。
サオリさんの話によると値段も手ごろだったとのことだ。
ちなみにサオリさん方は、お土産に食べ物は諦めて家族には個別でアクセサリーや玩具を選んだのだそうな。
その結果、お土産はそれなりの量になってしまっているので、後でメニューのアイテム欄に預かることにしたが、チャチャの方は自分で持っていたいというので、背中のバックパックにいれてやる。
最近、気温が高いから溶けないといいがな。
▽▽▽▽▽
「エグザルの街での時より出来るの早かったような気がするな。」
「あの時も2日くらいで出来てましたよ?」
探索者ギルドで全員分のカッパーの認識票を受け取り、それぞれに配る。
と、いっても今日はもう迷宮に入るつもりもないし、早ければ今晩この街を立つので、このまま使わない可能も高いのだが、お揃いの、それもキラキラしたものということでチャチャのテンションが高く、サナやミツキも自分たちが初めて手にした時のことを思い出しているのか三人でキャッキャと楽しそうにしている。
「なんか、せっかく貰ったのだから使わないと悪いような気がしてくるな。」
「うふふ、ウルキの街やトラージの街でも使えますから、急がなくても大丈夫ですよ。」
「そうですね。」
ちょっと迷宮に寄ろうかとも一瞬思ったが、サオリさんのいうことも、もっともなので、それはやめて探索者ギルドの簡易宿泊所を1室借り、淫魔法【ラブホテル】でいつもの別荘へと繋ぐ。
「私はちょっと街の外の馬車の様子を見てくるから、皆は少し休んでいて。」
「晩御飯どうしましょう?次の街についてからにします?」
「なんだかんだで着くのは結構遅くなりそうな気がするッスね。」
「逆に早く取ってしまうのも手だと思います。」
「チャチャも、もちろんお手伝いするにゃー。」
「それじゃあ、せっかく温泉から帰ってきてばかりのところで悪いけど、早めにお願いするかな?」
「はい。それじゃ、いってらっしゃい、お父さん。」
▽▽▽▽▽
門番にシルバーの認識票をチラ見せして、さも探索者の仕事のようなふりをして街の外に出る。
チラ見せくらいならエグザルの探索者ギルドの認識票でもバレないもんだな。
早速いつもの淫魔法【夜遊び情報誌】を使って街道の動向を確認すると、ミツキの読みはある程度は当たっていた。
実際のところは人を運ぶ馬車はもう既に昨日の段階で街に着いていたらしく、今街道を走っている馬車は人数的に荷馬車だけのようだ。
時刻としてはまだ夕方の4時前くらいなのだが、既に馬車の動きはほとんどなく、徒歩の旅人が数人いる程度。
そして距離的に考えてその徒歩の旅人も1時間もしないうちに街に着くだろう。
これなら思ったより早く街を出ることが出来そうだな。
サナです。
里まであと二街ちょっとなので、お土産は食べ物でも良かったんですけど、お母さんと相談して次のウルキの街で何があってもいいように別のものにしました。
次回、第五三八話 「山道」
ウルキの街からは行商人さんが里の近くまで来ますけど、タツルギの街の物は少ないので、結構喜んで貰えると思います。




