第五三六話 「ウルキの街へ」
朝食後、昨日約束した、というかされた家族風呂を済ませ、身支度を整え直して温泉街へと繰り出す。
観光地?ということもあって、サオリさんも含めて皆には銀貨を3枚ほどお小遣いとして配ってある。
当初、三人娘はお小遣いに遠慮がちだったのだが、サオリさんが快く受け取ってくれたのを見て、サナ、ミツキ、チャチャの順で受け取ってくれたのだ。
実際、温泉街は見どころというか遊びどころも食処も多く、なんだかんだいいながらも弓矢での射的やダーツのような的あて、チャチャの身の丈ほどもありそうな福引機、温泉まんじゅうに温泉卵づくり体験、煎餅屋に団子屋などなど、皆、目移りしながら遊んでいるうちに、お昼になってしまっている。
今はこの温泉街の名物だという山菜とろろそばを皆で食べているところだ。
なんでも、この温泉街のイメージカラーである白を、とろろの白で見立てているとのことだ。
いったもの勝ちみたいな気がしないでもないが、元の世界に比べると自然薯も山菜も味が濃く、それが逆に精製技術の低い蕎麦やかえしと絶妙にマッチして非常に美味い。
まぁ、粘りが強すぎてチャチャやミツキは若干食べるのに苦戦しているようだが。
「あっちの方には足湯もあるんですね。」
そういいながら一足先に食べ終わったらしいサオリさんが店の窓越しに川の方を眺めている。
いわれてみると、ちょっと先の小さな東屋の下に人が座って集まっているな。
「この後、行ってみますか?」
「あ、お父さん、その前に行きたいところが…。」
チャチャに箸の代わりにレンゲを取ってやっていたサナが小さく手を挙げる。
▽▽▽▽▽
「思ったよりかかってるッスね。」
「食べ物なら種類はあっても、日持ちするかどうかってのもあるだろうし、悩んでるんだろ。」
ミツキと二人で足湯に浸かりながら、お土産を買いに行った三人を待つ。
元の世界でなら、それこそ温泉まんじゅうやらお煎餅、お菓子やらがお土産の定番なのだろうが、包装技術や乾燥剤などが未発達のこの世界ではそうもいかないのだろう。
ビニール袋って偉大な発明なんだな。としみじみ思う。
こっちの世界でなら、いいとこ瓶詰め、あとは木箱などによる除湿くらいが限度っぽい。
「食べ物に拘らなければ楽っぽいッスけどね。」
「個人個人にお土産を買うとなると、それこそもっと悩みそうだがな。」
お土産を買って帰る場所がない組でそんな事を話ながらダラダラとしている。
「……チーちゃんも、お土産を買いに行くとは思わなかったッス。」
「……今のところ想像でしかないけど、どんな人だろうがチャチャにとっては家族なんだろう。
それに…」
「それに?」
「んー、昨晩の話の続きみたいだけど、チャチャは幸せを分けているというより、自分のキャパから溢れた幸せを配ることで、知らず識らずの内に自分の中のバランスを取っているんじゃないかな?」
「えーと、食べる前に分けているんじゃなくて、自分が食べきれない分を分けて、人に食べてもらっているって感じッスか?
あー、なんとなくわかるッス。
っていうか、それはちょっとアタシも共感しちゃうッス。
自分にはもったいないし、余すのは、もっともったいない。みたいな感じッスかね。」
ミツキが腕を組みながらウンウンと頷いている。
チャチャは良い子だ。
それはその通りなのだが、今まで一緒にいて見てきた中では、最初から人に分け与えるほど余裕があるような生き方だったようには、どうしても思えないのだ。
「それにしても、お土産を買うって事は、チーちゃんは家族の元に帰るつもりって事ッスよね?」
「そうだな。そのために旅をしているのだし。」
ミツキの少し寂しそうな、そして心配そうな声に、自分の動揺を隠しながらもそう答える。
「パパはそれでいいんスか?」
サナがミツキと自分を同一視しているのと同じように、別の面でミツキもチャチャと自分を同一視しているところがある。
自分の意志とは別に、元いたコミュニティから出ることになったが、帰る場所、帰れる場所が今いる場所より良い場所とは思えない。
そう思ってくれているのだろう。
だからミツキはサナはともかく、チャチャが故郷に帰る事については、あまり良い顔をしない。
いや、はっきりいってしまえば反対派なのだ。
チャチャにゃ。
お土産って初めて買うにゃぁ。
余計なお金使うにゃって、とと様に怒られたりしないかにゃぁ…。
でも、でも、ととさんたちに買ったこんぺとあげたら喜んでくれたから、きっとお家でも喜んで貰えると思うのにゃぁ。
次回、第五三七話 「お土産」
ホントはチャチャが貰ったお金は全部とと様に渡さなきゃ駄目なのにゃ。
でも、このお金はチャチャのためってととさんがくれたものだから……。




