第五二六話 「同期魔法」
轟音と共に槍を介してノーチラススネイルの身体を貫き、合わせてその体内から侵食するように広がる電撃。
狙うのは中級単発雷魔法と聞いていたが、先程の中級単発土魔法とは威力が段違いだ。
勿論、対象との相性もあるだろうが、槍のダメージで1本削りきって満タンに回復した体力ゲージのおよそ半分をも奪っていっている。
それもそのはず、名称こそ中級だがレベル35のサナ、つまりゴールドの探索者相当の強さのものでもまだ単独では唱えることが出来ず、本来ならプラチナクラス、しかもその中位以上の者でやっと使えるという品物だ。
それをサナとミツキの二人は同期魔法で見事やってのけたのだ。
いや正確には同期魔法と同調魔法の複合術式らしいので、サナにとっては以前マミ先生やヤコさんとの経験が生きた形だ。
同調魔法で同系統の魔法を一本化してより上位の魔法を発動させ、同期魔法でその発動条件を下げることにより、自分たちの実力より遥かに高い魔法を実現させた。
メイン術者となるサナ自体の魔法適正もあるだろうが、ミツキとの息のあったコンビネーションがあればこそなのかもしれない。
そんな風に感心していると、電撃が収まるまで痙攣するかのように動かなくなっていたノーチラススネイルだったが、それでも殻の蓋を開けてそこから触手を伸ばし、身体を起こそうとしはじめた。
が、
「まだ起きちゃ駄目にゃ!」
チャチャの大上段からのロングハンマーが起き上がりつつある殻の端を捉え、テコの原理も合わせて再び地面へと横たわらせる。
そしてそれと同時に地面と接触している触手をサオリさん私の二人で切り払っていく。
「数えるにゃ!」
サナ達から合図を貰ったのか、触手から目と手を離せない私達に変わってチャチャがカウントをスタートする。
「3…2…1…」
ラストカウントに合わせて大きく後ろに飛び退のくと、本日2発目の中級単発雷魔法が再び刺さったままの槍を介してノーチラススネイルを捉え、その身体を緑色の光の粒子に変えていく。
「やりましたね!」
「やったにゃ!」
思わず、といった感じでサオリさんとチャチャから歓声が上がるが、サナとミツキの声がしない。
心配になって見回すと、二人とも女の子座りで地面にへたり込んでいる。
「疲れたー。」
「もう魔力切れッス…。」
集中が切れたサナと魔力が切れたミツキは、そのまま大の字で寝転び始めた。
「お疲れ様。」
まずはサナのところに行って頭をひと撫で、そのままミツキのところまでお姫様抱っこで連れていき、ミツキの横に寝かせ直すと、力なさげに二人でハイタッチしている。
「本当にお疲れ様。二人ともよくやったね。」
そういって改めて二人の頭を撫で直すと、気持ちよさそうに目を細める二人。
「チャチャちゃんも頑張ったわね。偉い偉い。」
「うにゃぁ、照れるにゃぁ。」
向こう側ではサオリさんがチャチャを抱きしめながら、その頭を撫でていた。
▽▽▽▽▽
「この後、どうするッスか?」
少し遅めのランチであるサンドイッチを頬張りながらミツキがそう聞いてくる。
ミツキは体力的には問題ないが、魔力不足と【ドレイン】を付与した武器ももうほとんど残っていない状態だ。
「またあんなの襲ってきたら怖いですね。はい、チーちゃん。」
サナはまだ魔力は残っているが魔力ゲージ自体は全部使ってしまっている。
なので今表示されている魔力量がそのままイコールで全魔力だ。
「ありがとにゃぁ。」
サナから受け取った牛乳のコップを美味しそうに傾けるチャチャ。
一番元気そうにはしているが、高速移動が続いていたので身体への負担が気になる。
「一度戻っても良いのではないでしょうか?経験的にも素材的にも十分得るものは大きかったですし。」
サンドイッチの最後の一欠を飲み込んだ後、サオリさんがそう提案する。
ノーチラススネイルの粘液による軽い火傷はあったものの、すでにそれは治療済みで、体力的にはまた少し余裕がある。
だからこそ今のうち帰路につくべきだとの提案だ。
「そうですね。何時もみたいにすぐ部屋に帰れる訳でもないですから、余裕があるうちに撤退しましょう。」
サナです。
ふぅー、上手く行って良かったー。
ミツキちゃんと二人なら大丈夫だとは思ったけど、実際に成功するまではドキドキでした。
逆に2回目は少し余裕が持てましたね。
次回、第五二七話 「タツルギ温泉」
えーと、ランク4の魔素核って、たしか初めてですよね?




