第五二三話 「ノーチラス」
「やばーい!アイツが来るよ!」
ご近所パーティーの鳥人族の女の子が目の上に手をかざしながら、そんな風に空を飛びながら叫んでいる。
ちなみにこの娘、さっきまで敵に空から矢を射ったり、上空から鉄球を落としたりと、なかなかエゲツない攻撃をしていたのと、2回くらい鳥系のモンスターに絡まれていたのもあって、ちょっと気になっていた。
今回もそれ系の敵でも見えたのかな?と思っていると、視界の端のレーダーに写った敵の反応がみるみる近づいて来ており、それにしたがって地鳴りと木々が折れるような音も同じように近づいてくる。
「おい!あんたらもアイツに絡まれる前に逃げたほうがいいぞ!」
先程手を振ってた獅子族の探索者がそうこちらに声をかけつつ、一目散に森の中逃げていく。
そんなヤバい相手なのか?と思う暇もないくらいの勢いで目の間の木々が左右に押し広げられるように倒れ、その間から幅1m50、高さは4mくらいはありそうな、長方形が現れる。
いや、正面からなのでそう見えるだけで、まるでタイヤのように回転しているそれは足元の草地を切り裂くようにカーブをしながら先程逃げ出した探索者を一瞬追いかけた様子だったが、すぐに諦めた様子で今度はこちらへと向かって走って来た。
「なんスかアレ!?」
>ノーチラススネイルの【咆哮】
ミツキの悲鳴のような疑問を他所に、そのまま突進してくるかと思ったら、そいつは何かスキルを使う様子だ。
げ!しかもレベル40かよ。
咄嗟に使った淫スキル【性病検査】がそのレベルを知らせてくる。
「レベル40!突進以外の『何か』が来るから備えて!」
「分かりました!【金剛結界】!」
「合わせます!【瞑想結界】!」
サオリさんの範囲物理防御スキル【金剛結界】でつくられたフィールドが、咄嗟に一箇所に集まった私達を包み込んだ後、サナの対魔法結界でもある【瞑想結界】が更にその外側を囲む。
この2重の結界なら、たとえ相手の攻撃魔法であっても外側の【瞑想結界】がその威力を減衰させ、内側の【金剛結界】がその物理的ダメージを軽減、あるいはシャットアウトできる。
だが予想に反し、タイヤのように転がって来たノーチラススネイルはビタッと結界の手前2mくらいで止まったかと思うと、その地面に面している場所の近くの蓋のようなもの開き、中から触手のようなものをピンと伸ばしながら大きな叫び声を上げた。
いや逆か、触手をピンと伸ばして急制動をかけた上で叫んでいるのか。
その叫び声に合わせてノーチラススネイルの足元の草だけではなく、周辺の木々もビリビリと揺れているようだ。
幸い結界内だと効果がないようだが、なにか色々追加効果がありそうなスキルだな。
警戒しつつノーチラススネイルを観察すると、その形はまるでオウム貝だ。
丸い貝殻とその蓋の間からイカを思わせる触手と目を覗かせている。
どうやら転がる時は、この蓋で地面を蹴るようにして後転の要領で走っていたようで、逆にそこの蓋の中から一気に触手を伸ばすことにより先程のように急停止もできるようだ。
そのままだとバランスが悪くて倒れそうにも見えるが、よく見ると後ろ側にも触手を束ねて出しており、全体としてはオウム貝とカタツムリの間の子みたいなフォルムをしている。
「レベル40なら出し惜しみをしてる場合じゃないッスね!」
ノーチラススネイルの【咆哮】が終わったタイミングを見計らって、ミツキが胸のホルダーに挿してある【ドレイン】を付与したクナイに似た投げナイフを、その目玉目掛けて3本同時に投擲する。
が、ノーチラススネイルは器用に触手を使って身体を捻り、その巨大な殻でそのナイフを弾き返した。
確かに身体には当たっているのに体力が減らないところを見ると、あの殻は防具などの装備扱いになっているらしい。
「殻に当たってもダメージにならないみたいだ。」
淫スキル【マゾヒスト】の危険感知、正面から横薙ぎ、触手!
やばい!
「後ろの触手が来る、散って!」
ノーチラススネイルは身体をよじった勢いをそのまま利用して後ろ側の触手をこちらに伸ばして来たが、私の声を合図にサナとチャチャが大きく後ろに、ミツキはその触手を飛び越えて斜め前に、私とサオリさんは相手の正面側へと走り込み、それを交わす。
「お父さん、地面見て!」
「え?」
サナの声で先程まで自分たちがいた場所を見ると、ノーチラススネイルの触手を包み込んでいる粘液のようなものが、そこにあった草どころか地面自体を溶かし始めている。
触手攻撃の追加攻撃か。
装備を壊される系のやつかもしれない。
幸い私達が使っているのは淫魔法【コスチュームプレイ】か【淫具召喚】で出している魔法の武器や防具なので、そうそう溶けることはないとは思うし、溶けてもすぐ換えを出せるが、こいつ相当厄介な相手そうだぞ?
サナです。
変な敵が現れました。
なんか、うじゅるうじゅるしてます。
貝っぽいので、魔法で焼いた方がいいのでしょうか?
それとも水っ気が多いので凍らした方が?
次回、第五二四話 「釘打ち」
まだ攻撃が読めないので、私はなるべく距離を取っておいたほうが良さそうです。
 




