第五二二話 「ワンダリング」
「かかさん強いにゃぁ!」
身の丈2m50はあるデミジャイアントマンティスの右側後脚2本をキレイに切り落とし、片膝を物理的に2本も付かせたサオリさんの一撃にチャチャが歓声を上げる。
素の攻撃力は高レベルの私やチャチャの方が高いものの、業物である薙刀をベースに生み出した魔法の薙刀を含めた総攻撃力なら今でもサオリさんがパーティー内で一番だ。
数値上は私が淫魔化すれば越えられるものの、今の一撃のように関節の間を縫うような斬撃はサオリさんならではである。
そんなサオリさんは盾役でもあるのだが、こう広い場所で大きな敵だと、目の前をチョロチョロとしているチャチャが攻撃意欲を駆り立てるのか、単に鬱陶しいのか、結構な確率で狙われている。
「うにゃっ!」
それを持ち前の回避力と爪を伸ばした手をスパイク代わりにしたトリッキーな動きで交わすチャチャ。
そんな動きに目を奪われたところに、死角から急所を狙ったミツキの一撃がデミジャイアントマンティスの右複眼を奪うと、痛みか怒りか両手の鎌を狂ったように振り下ろし始め、斬撃の線の攻撃がまるで面のようにチャチャを襲う。
が、そう簡単にやらせては私の立場がない。
【格闘】スキルを使いつつチャチャの前に滑り込み、両手で持った槍でその2つの鎌を受け止めた。
「行きます!」
その動きを止める瞬間を待っていたかのようにサナの範囲系土魔法が円錐状の棘を地面から生み出し、デミジャイアントマンティスの比較的柔らかい腹部を貫いていく。
「チャチャも行くにゃー!」
「決めます!」
するりと足元を左側に駆け抜け回転し、そこから振り返るような体勢でデミジャイアントマンティスの腹部に上からロングハンマーを叩きつけるチャチャと、その反対側からタイミングを同じくして振り下ろされるサオリさんの薙刀。
「了解ッス!」
ダメージに喘ぐように首を上げる瞬間を見逃さなかったミツキが、そのレイピアとマン・ゴーシュでその首を刎ねる。
しばらくは頭のない身体をキョロキョロとしていたデミジャイアントマンティスだったが、チャチャとサオリさんの追撃をうけて動かなくなった。
一応ラストは正面から胸部を串刺しにはしているのだが、私が一番活躍してないような気がする。
「レベル30なら普通にいけるッスね。」
「一応、格下だからなぁ。」
ウキウキしながらドロップ品を拾い集めているチャチャを見ながらのそんなミツキのつぶやきにそう返す。
「結構相手がキョロキョロしてくれてるのも大きいかも?」
サナが呪弓に魔力を込めながらそう感想を漏らした。
確かに敵からすると攻撃力の高い両手武器が3方向から襲ってくるのは厄介だろうし、そっちに警戒しすぎると上からミツキが降ってきたり、【魔力操作】スキルを使ったサナの魔法が地面側から襲ってきたり、両手武器の線の攻撃に慣れてきたあたりで二人が合間を縫って点の攻撃である矢を射ってきたり、私が槍で刺したりと、かなり面倒くさい相手だろうな。
「お父さん、上の鳥、危ないので落としちゃいますね。」
サナの指差す方を見ると、鷹に似た大きな猛禽が大きく旋回している。
一回、戦闘中に襲ってこられてひどい目にあった。
「了解、私も間合いに入ったら手伝うよ。」
「アタシも矢で手伝うッス。」
「それじゃいきます。」
呪弓で眠りの魔法を付与したサナの矢が、猛禽の右翼をなんなく捉える。
翼にダメージを与えつつ眠らせて落下距離を稼ぐとは、サナも空を飛ぶ敵はハーピー戦で慣れたもんだな。
ホント敵にとっては嫌なパーティーだ。
▽▽▽▽▽
「おお、上の奴落としてくれて助かるよ。」
同じ広場で狩りをしている獅子族の探索者がそういって手を振っている。
こちらと同じ5人パーティーだが、全員レベル30以上の亜人族で、ひょっとしたらゴールドの探索者なのかもしれない。
エグザルの街なら20人といないゴールド級だが、ここタツルギだと倍はいそうな雰囲気だな。
それが亜人族の助け合いの精神によるものなのか、それとも単純に人族に比べ亜人族自体が強いのかは謎だ。
なんとなく両方な気がしないでもない。
そんな事を考えていると視界の端のレーダーに高速で動く敵の反応が写った。
ミツキッス!
パパの【ドレイン】なくてもなんとかなるもんスね。
一応、念の為、投げナイフと矢の一部には仕込んでもらってるッスけど、このままなら使わないで済みそうッス。
アタシの攻撃はパパの【ドレイン】に特化したところがあるんで、ちょっと心配だったんスよ。
次回、第五二三話 「ノーチラス」
ん?なんか地響きしてないッスか?




