第五一九話 「初めての報酬」
「はい、ここにさっきのお姉さんから貰った札と、ちーちゃんの札と、今日集めたものを出して。」
「あい。」
サナのいうとおり左手で持っていた探索者ギルドの依頼を受領した証明となる札と、首にかけていた木製の認識票、それからサナと色違いだがおそろいのランドセル風バックパックからゴソゴソと3個のカプセルと4つの魔素核を取り出し、換金所の窓口にあるボックスに並べていくチャチャ。
「これで良いにゃ?」
「オッケーッスよ。これを窓口に『お願いします。』って。」
「おねがいします。」
「はい、おねがいされました。」
たどたどしいチャチャを笑顔で見守っていた色白で細身の山羊族だという換金所のお姉さんが、ボックスを受け取り背後の事務所へと受け渡す。
「お嬢ちゃん頑張ったみたいね。よい金額になるといいわね。」
「うにゃー。」
また褒められてチャチャが照れている。
さっき探索者ギルドの依頼受付にいた羊人族の眠たそうなお姉さんもそうだったが、このギルドは褒めて伸ばそう精神が徹底されているのか、それとも初心者に優しいのか、すごく居心地がいい。
チャチャの初めての迷宮がここタツルギの迷宮で良かったと、ひしひしと思う。
「はい、お待たせしました。ランク外の魔素核が4個で大銅貨4枚と、プラチナコガネの殻のカプセルが3つ、こちらはセットでの依頼達成品ですので、銀貨5枚となります。」
「にゃ?にゃ?」
「チャチャちゃんが集めた分だから、チャチャちゃんが受け取っていいのよ?」
迷った様子のチャチャがおずおずと受け取り、両手に乗せてオロオロしている。
「お、お金を貰った時は、とと様に全部渡さなきゃ駄目なのに、こ、これはどうしたらいいのにゃ?」
その言葉を聞いた途端、表情が氷点下に下がる山羊族のお姉さん。
違うんです。
「ここにはチャチャのとと様はいないし、これはチャチャが自分で稼いだ分なんだから、全部チャチャのものだよ。」
あらいけない私ったら失礼な勘違いを、という表情に戻る山羊族のお姉さん。
そう、そうです勘違いなんです。
っていうか、やっぱりそういう躾、いや虐待を受けていたのか。
「チャチャの…。」
「これで大体の要領は分かったッスね?」
「今度は私達も手伝うから、もうちょっと頑張ってみようか?」
「うふふ、チャチャちゃんもだいぶ字が読めるようになったから、今度は依頼を選ぶところから始めたらどうかしら?」
「それいいいッスね!」
「いこ!ちーちゃん!」
「はいにゃ!」
ミツキとサナに手を繋がれ、かけていくチャチャ。
その後ろをゆっくりと見守るようにサオリさんがついていく。
▽▽▽▽▽
「はーい、お待たせしました。今日は、ちーちゃんのおごりで、ぼたん鍋ですよー。」
「これは美味そうだな。」
「いい匂いッスね。」
「ぼたん鍋なんて久しぶりね。」
サナがテーブルの中央に置いた土鍋から味噌仕立ての鍋の香りが広がり食欲をそそる。
「お肉のおかわりあるにゃー。」
サナに引き続きチャチャも、猪の肉が乗った大皿をテーブルの上に並べている。
結局あの後、チャチャが選んだのは、こうして猪肉が取れるという理由で、デミボアーの素材収集という探索者ギルドの依頼だった。
最初に狩ったオオプラチナコガネよりも10は高いレベル15スタートという強さだったが、サナやミツキのサポートはもちろん、サオリさんの指導のおかげもあってなんなく狩ることができた。
チャチャの天性の当て感、というか最初がそうだったせいか、カウンター攻撃が異様に上手くなったというのもあるが、オオプラチナコガネ戦で、ほんの僅かだったがチャチャに戦闘スキルの元が手に入ったので、そこに淫スキル【ナルシスト】と種族特性【眷属化】の合せ技で【習得値】を振ったのも大きい。
ロングハンマーが分類としては【両手棍】扱いだったので、そのスキルと【格闘】をランク1に、【回避】はランク3まで上げたから、チャチャ自身のレベルやステータスもあって、素人の腕自慢程度では勝たないまでも負けるような事はないくらいになったと思う。
【回避】はともかく攻撃系のスキルをあまり高くしなかったのは、あまりダメージが出すぎると素人相手なら死ぬ可能性が出るのを危惧したためだ。
チャチャにゃ!
ねぇねは凄いのにゃー、次から次と森から猪さんを見つけて連れてくるのにゃー。
それをねねさんがピュンって矢でうつと、こっちに向かってくるから、広いところでポカンと叩くのにゃ。
一回失敗して危なかったときの、かかさんも凄かったのにゃ、なんか、こう斜めにスパーって…。
次回、第五二〇話 「チャチャのおごり」
ととさんは、ずっと森の中だったから、ねぇねと一緒だったのかにゃ?
 




