第五十一話 「おかえりなさい」
食事が終わった頃には辺りはめっきり暗くなってしまい、魔法道具と思われるランプが各屋台で灯っている。
サナは帰り道で結局受け取ったお小遣い、いや報酬を使い、竹のような筒に入った水羊羹みたいなお菓子を買い食いしていた。
夜市歩いている時にガン見してたしなそれ。
同じく竹製のヘラで掬って食べるものらしく、一口食べさせて貰ったが、味も甘みの抑えられた水羊羹といった感じで食べやすい。
なんでもサナの好物なんだそうな。
あんこ系に弱いのかな?覚えておこう。
その他にも小さな林檎飴のようなお菓子も買っていたが、これは部屋に持ち帰るらしい。
探索者ギルドに戻って来た頃にはホールの時計は夜の8時を回っていた。
ホール内も食事というより飲んで騒いでいる者がほとんどだ。
変に絡まれるのも嫌なのでさっさと部屋に戻る。
「ただいまー。と、いっても誰もいないわな。」
部屋に入る時に一人暮らしの時のクセでついそういってしまうと、後から部屋に入って来たサナがもう一回やってとジェスチャーする。
なぜジェスチャーかというと、水羊羹の最後の一口をモゴモゴしてたからだ。
指示どおりに一回部屋を出て、もう一度ドアを明けて言い直す。
「ただいま。」
「おかえりなさい、お父さん。」
ニコッと笑顔で出迎えてくれるサナ。
「…お父さん?泣いてるの?」
え?サナに言われて目尻から頬を触ると涙の感触がある。
何か自分でも気づかない感情に刺さったらしい。
「いや、誰かが出迎えてくれるのっていいな。と思っただけだよ。」
たぶんそういうことなんだろう。
自分を待ってくれている人がいる。それだけで心が暖かくなるものなんだろう。
すっかり忘れてしまっていたな。
サナの頭を撫で、すれ違うとそのまま簡易宿泊所のマットの上に座る。
感触的に束ねた藁に布をかけただけのもののようだ。
当然座り心地も悪いし、寝心地も悪いだろう。
まだ時間早いけど泊まりで使える部屋あるかな?
淫魔法【ラブホテル】を宿泊で使用可能の縛りで使うと、いつものようにちゃんと6件ヒットしたので、特性【ビジュアライズ】でパネル状に可視化するとサナが覗きに来た。
「今晩のお部屋ですか?」
「ああ、サナはどの部屋がいい?」
「前はあたしが選んだので、今度はお父さんの好きなところにしてください。」
特に希望はないのだが、思うところがあってオーシャンビューの部屋を選んでみた。
部屋の雰囲気はサナに合わせて和風というか和モダンなタイプだ。
パネルでタップをし、簡易宿泊所の扉に対して魔法を発動させる。
どうでもいいがラブホテル行き過ぎな気がする。
異世界ってなんだろう?って感じだ。
魔法を受けて扉の外枠が光る。
「それじゃ行くか。」
「はい!」
立ち上がりそう言うと、サナは林檎飴の包みと巾着を胸に抱いて付いてきた。
部屋に入るが基本的な作りは前とかわらない。
入り口の廊下から左手に浴室やトイレへのドアがあり、正面のドアを開けると手前から右手にキングサイズのベッド、ベッドとは反対側の壁に戸棚やテレビ類が並んでいる。
ベッドの向こう側の奥に畳が引いてあり温泉を思わせる座卓と座椅子、その向こうが大きな窓になっていた。
「おお、窓からちゃんと海が見える。」
月明かりの下、寄せては返す波が眼下に見える。
部屋の位置としては結構高い階層らしく海からも距離的にそれなりに離れている。
単に距離があるせいかもしれないが、海は見えるが波音が聞こえないことを考えると、やっぱり元の空間とはちゃんと繋がってないのかもしれない。
「湖?」
「海だよ。」
「海!あたし初めて見ました!」
サナのテンションが高い。
窓に張り付くようにして外を見ている。
「朝の方が見やすいと思うよ。」
そういってベッドに大の字に横になる。
枕元には和風のライトシェードが灯っていた。




