第五一五話 「チャチャの武器」
「攻撃を受けることも考えたら両手槌はどうでしょう?」
両手槌というと、ロングハンマーか。
うちは刺突が中心でサオリさんの長刀による斬撃がサブということを考えると打撃武器というのはパーティー的に考えてもバランス的にも良いかもしれない。
近距離は【格闘】あるいは爪で、中距離はロングハンマーというのは、私のスタイルに近いものもあるし、振り回す系の動きはサオリさんも指導できるだろう。
「いいですね。それじゃちょっと選びにいきましょうか。」
「にゃ?」
▽▽▽▽▽
「チャチャはリーチが短いから、得物は長いものが良さそうだけど、扱うの難しいでしょうかね?」
「習うより慣れろですよ。チャチャちゃん、これ持ってみて?」
「はいにゃ。」
チャチャの身の丈もある黒鋼製のロングハンマーをひょいと持ち上げて手渡すサオリさん。
ちなみに黒鋼は鉄より硬く、また軽い素材である白鋼より更に硬いが、重さ自体は鉄より重いという素材らしい。
武器屋の店主である牛人族のおっちゃんが、鬼族にはちょうど良くても猫人族には重くて無理だよ。と笑っている。
が、
「うーん、ちょっと重いかにゃ?」
レベル44のチャチャには、その圧倒的なレベルとランクによって、レベル30の人族並みの筋力があるのだ。
黒鋼は重さを攻撃にする武器に向いているということなので、ハンマーには最適だろう。
どうせ最終的には淫魔法【コスチュームプレイ】で魔法の武器として出しなおして重さも少し軽くなるのだから、ちょっと重いくらいならちょうどいいかもしれない。
何よりハンマーの片側がピック状に尖っているため、種族特性【ドレイン】を仕込むのにもちょうどいい。
「チャチャ、ちょっと軽く振ってみて。」
驚いている店主をしり目に片手で少し扱った後、両手で振りなおすチャチャ。
「重くて片手じゃ無理にゃぁ。」
「うふふ、両手用の武器だからそれでいいのよ?」
「そうなのにゃ?普通のトンカチとは違うのにゃ?」
「良さそうだね。じゃ、これを一つください。あとこの娘が背負えるように何かベルトみたいなものはありませんか?」
「お、おう…。」
そんな風にチャチャの武器を買った後、サナとミツキの待つ、この街の探索者ギルドへと向かった。
▽▽▽▽▽
「おかえりなさい。」
「お疲れッスー。こっちは無事登録できたッスよ。」
ミツキのいう無事というのは、淫スキル【パネルマジック】によるレベルの偽装工作が成功したという意味だ。
このスキルにより鑑定された際、本来の35レベルではなく、ちゃんと偽装後の21レベルに見えていたそうだ。
まぁ、それでも結構驚かれたらしいが。
ミツキで16歳、サナに至っては13歳でそのレベルというのは軍人並みの高さで、しかもエグザルの街ではシルバーの探索者だというのだからしょうがない。
それを聞いて安心してチャチャを探索者へと登録させる。
チャチャも同じく【パネルマジック】により、無事レベル14の新人探索者として登録できた。
そのあと、私がレベル26、サオリさんが33の探索者として登録し終わった。
探索者としてのランクでいうとチャチャはカッパー。
残りの私たちはシルバー(仮)という扱いになる。
エグザルと違ってチャチャが木製の認識票から始まらなかったのは、シルバー(仮)の私やサオリさんと一緒のパーティー扱いにしてくれたためだ。
結構アバウトだな、タツルギの街の探索者ギルド。
ベテランであるシルバーが二人も指導するから、というのも込みでカッパースタートといわれれば、ある意味合理的か。
サオリさんにいたってはレベルとランクだけで言えばゴールドクラスなのも影響したのかもしれない。
ちなみに私たちのシルバー(仮)というのは、シルバーとしての実力は信用して迷宮内の依頼はシルバー以下のものを受けても構わないが、迷宮外、つまり街中での探索者としての活動は「まだ」認めない。というものらしい。
エグザルの街ならともかく、この街での信頼は0だからこれは仕方がない。
どちらにしても、カッパーもシルバーもまだ記号や番号、名前を彫る関係で正式な認識票は用意されていないので、全員記号と番号だけが彫られた木製の認識票を配られている。
チャチャはこの認識票を、シルバー組はこれとシルバーの認識票の両方を首からぶら下げる形になる。
それでも同じものを配られたということで、チャチャは嬉しそうにしていた。
サオリです。
チャチャちゃんの手に合わせて細身の両手槌になってしまいましたけど、それでも頭は大人の男性の握りこぶし程度はありますし、黒鋼製なら威力も十分だと思います。
…もちろん当たればですけども。
次回、第五一六話 「タツルギの迷宮」
特に動いている相手には難しいでしょうけど、こればかりは慣れですね。




