第五一三話 「移動手段」
「さて、これからのことだけども…」
食後の冷やし飴と甘酒を飲みつつ、皆で小さく輪になって打ち合わせをする。
ちなみに私とサオリさん、サナが甘酒で、チャチャとミツキが冷やし飴だ。
「昼過ぎちゃったッスから、馬車で次の街へ移動なら明日以降ッスね。」
「うまく便があるといいですけど、一日二日待つこともありますよね?」
ミツキとサナが飲み物を交換して味見をしながらそういった。
「その、自動車でしたっけ?それは使えないんですか?」
「人目を避けなきゃならないのと、後は道の状況次第ですね。」
好奇心を隠しきれない様子でのサオリさんの提案だが、自動車は便利な分、利用に制限がある。
撒いたつもりではあるが、追われている身なので目立つことは避けたいのだ。
逆にいうと亜人族が多いこの街だと、私達のパーティーは一番目立たないともいえるし、そういう意味では亜人族の比率が高いアサーキ共和国は安全性が高い。
鬼族はもちろん、猫人族なんて探さなくても目に入るくらいだし、ミツキみたいな茶兎族なんてレアな種族も普通に歩いているので、私とサナ、あるいは私とサナとミツキくらいのパーティーの特徴だけの情報ではまず見つからないだろう。
木を隠すなら森の中、というやつだ。
そういう意味では多少は、ゆっくりできる環境ではある。
「タツルギの街からウルキの街への山越えは十二新興街の街道の中でも一番の難所だと聞いたッス。」
「『竜の顎』といわれる山脈の山頂まで上がるのは大変らしいですよ?」
ミツキに引き続きサオリさんも補足説明をしてくれる。
「途中に町はないの?」
サオリさんほどアサーキ共和国内の土地勘がないサナは私と同じで質問組だ。
「聞いた話だと山頂に拓けた場所はあるけれど、町というほどではないらしいわ。」
「サルトの町のキャンプ場みたいな感じなんスかね?」
過酷な道っぽいので、そんなに馬車は頻繁に出て無さそうにも感じるが、平野に位置するウルキに山林に囲まれたタツルギ産の商品は需要がありそうな気もする。
ましてやウルキはトルイリの街やホウマの街と同じで、大聖神国街にも繋がる交通の要所な上、アサーキ共和国の首都トラージの隣街だ。
それなら多少無理をしてでも物流を確保しているような気がするので、荷馬車自体は出ていそうだが、人を乗せる馬車はどうだろう?
マップから淫魔法【夜遊び情報誌】で手に入れた情報を見る限り、客車の相場は今までの場所のほぼ2倍以上とだいぶ高い。
大聖神国街からネネ行きの馬車が同じくらい高かったような気がする。
その時のように需要はあるけど本数は少なそうな気がするなこれ。
「うにゃ?わからないなら馬車屋さんに聞きにいったら駄目なのにゃ?」
確かにサナから甘酒を一口貰っていたチャチャのいうとおり、諸々本職に聞くのが一番っぽい。
▽▽▽▽▽
結論からいうと、人を乗せる馬車は3日に1本のペースでしか出ておらず、しかもその便は今朝出たばかりだそうな。
基本的に馬車運がないな私達。
「明々後日まで待つッスか?」
「うーん、一日二日ならともかく、三日となると、せっかく昨日稼いだ日数がもったいない感じはするな。」
一応念の為、馬車乗り場へはミツキと二人だけで来ている。
いくら亜人族が多い街とはいえ、黄人族の男、鬼族二人、茶兎族、白猫族の女のパーティーでいつも動いていれば、その絞り込みで追手に見つからないとも限らないからだ。
「今朝この街についた時もそうだったッスけど、探索者のタグ見せれば変な時間であっても街からの出入りは大丈夫な気がするんスよね。」
「夜に街を出て車で移動か?そりゃ手ではあるけど、もしもエグザルの街の探索者なのがバレると不自然じゃないか?」
ただ、単にサオリさんやチャチャも自動車に乗せてあげてみたいという気もしないでもない。
「なら念の為、この街の探索者ギルドにも登録するってのはどうッスか?
今までの街と違ってアサーキ共和国領ッスからネローネ帝国に情報が行く確率も低いと思うッス。
あと、実はちょっとこの話とは別に思うところもあるッス。」
「思うところ?」
アイディアを出す時のミツキはいつも溌剌としているのだが、今回はちょっと表情が暗い。
「チーちゃんの事ッス。トラージの街まであと二街ッスから、もうそんなに時間が無いッスよ。」
チャチャにゃ。
毎日毎日こんな美味しいものを食べてバチが当たるんじゃないかと心配にゃぁ。
でも冷やし飴美味しいにゃぁ。
ねねさんの甘酒も美味しかったにゃ。
次回、第五一四話 「手段」
ととさんとねぇねは馬車屋さんに行くっていってたけど、チャチャ達はどこに向かっているのにゃ?




