第五一〇話 「チャチャの買い物」
カチャカチャという音とともに、その小さな手に瓶の中身を取り出すチャチャ。
「ととさん、あい。」
「ねねさんも、あい。」
そういいながらチャチャはその手の中のものを配っていく。
「これは…」
「お星さまなのにゃ。」
ミツキにも、サオリさんにも配り終わったチャチャが、そういって自分の分を目の前に翳すように金平糖を持つ。
「かわいい。」
「キレイッスね。」
サナやミツキもそれに倣うように色とりどりの金平糖を翳し持っている。
「嬉しいけどチャチャちゃん、いいのかしら?」
ちょっと戸惑っているようなサオリさんに話を聞くと、なんでもこの金平糖は一瓶に6個しか入っておらず、サオリさんが渡したチャチャにとっては初めてのお小遣いで買ったものらしいのだ。
つまりチャチャにとっては非常に貴重なものだといえる。
そんな大切なものを自分たちに配ってしまって良いのか?とサオリさんは思っているらしく、それを聞いた私も同じくそう思う。
「いいのにゃ。キレイできっと美味しいから、みんなで食べたらもっと美味しいはずにゃ!」
そんな大人たちの考えを意に介さず、笑顔でそう言い切るチャチャ。
「…そうッスね。その通りだと思うッス。」
「ちーちゃん、ありがとう。」
ミツキとサナがそういって二人がかりでチャチャの頭を撫でている。
「ありがとうチャチャ、遠慮なくいただくよ。」
「はいにゃ!」
チャチャから貰った金平糖は甘く優しい味がした。
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その後はサナとミツキ秘蔵の生キャラメルを同じく分け合ったりしながら、昨晩の私たちに起こった出来事をサオリさん達に説明した。
「大変だったのですね。」
「でも楽しかったッスよ?こう、ブーンって。」
「うん、最初はちょっと怖かったけど、すぐに慣れちゃったし。」
「面白そうにゃぁ。」
どちらかというと話題は実質被害のなかった襲撃事件よりも自動車の方にシフトしていく。
「さすがに自動車は目立つから、人気のない場所や時間しか使えないかな。」
「それだと、あたしたち貴重な体験をしたんですね。」
「十二新興街を繋ぐ街道は良くも悪くも人が多いッスからね。速くて便利ッスけど、出番はなさそうッス。」
「残念にゃぁ。」
「うふふ、きっとそのうち機会があるわよ。」
そんな話を食休みがてらにしながら話題は今後の予定へと変わっていく。
「十二新興街で一二を争うほど亜人族が住みやすいっていうタツルギの街は、アタシ気になるッスね。」
「ちなみにもう一つはどこの街なの?」
「アサーキ共和国の首都トラージですね。海辺の街なのでタツルギとは好みの差かもしれません。」
ミツキに聞いたつもりだったが、サオリさんがそう答えてくれた。
トラージまで行けば、サナの故郷まではそう遠くない。
サオリさんにとっては地元みたいな感覚なんだろう。
「あと、レベルも上がったからお参りも行っておいたほうがいいかも?」
チャチャの髪の毛をブラシで梳かしながらサナも話に加わる。
そういや最後に社に行ってからサナは1レベル、ミツキやサオリさんは2レベルも上がっていたっけか。
「そうね、社、いや、御宮に行った方が良さそうね。」
「御宮?」
「行ってみればわかるッスよ。」
今度はサオリさんに聞いたつもりがミツキにそう返された。
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「アサーキ共和国は亜人族の国ッスからね。西本社や東本社だけじゃなくて、ほかの種族とも共通の御宮があるッス。」
「天父神様の社を北本社または上の宮、海母神様の社を南本社または下の宮といって、東本社と西本社を合わせた言い方の中の宮と三つ合わせたものを御宮と呼ぶのですよ。」
ミツキとサオリさんの解説を受けながら、メニューのマップを頼りに、その御宮を目指して移動をしている。
この街に辿り着いた時は早朝過ぎて人気が少なかったが、今歩いているところは大通りということもあって結構な人数の亜人族が行き来をしている。
今までの街で見なかった羽根のある亜人族や、顔やデコルテ、手足に鱗がある亜人族などもいるのが新鮮だ。
サナです。
あたし、蛇人族の女性見るの初めてです。
細身なのに色っぽいですよね。
海母神様にお仕えする海母神族の方は、こういう体型の方が多いそうです。
次回、第五一一話 「御宮」
天父神族の方もそうですが、卵で生まれる種族が多いらしいですよ?




