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第五十話 「夜市」

 「戻ったよー。」

 「あっ、ご主人様。」

 「ごめんね、思ったよりかかっちゃって。」

 ラブホテルに戻るとトテテテと音がしそうな勢いでサナが迎えてくれた。

 サナにご主人様って呼ばれるの久しぶりな気がする。


 「どこに行ってたか聞いてもいいですか?」とサナが上目遣いで聞いてくる。

 「私達が出会った隠し部屋から逃げる時に迷宮側の扉を開けっ放しにして来たの覚えてる?」

 「はい。」

 「その扉が閉まってたから様子を見に行ってきたのよ。誰か来た様子だけど、デミオークも普通にいたから見るだけ見て異常があったので出戻った。ってところだと思うわ。」


 「あたしたち逃げ切れたでしょうか?」

 サナが不安そうにしている。


 確かにサナの面は割れている可能性は高い。

 少なくともサナをあの場所に物理的に運んだものがいるのだから。

 ただ、状況的には王子達を探すのを最優先にするだろうから、サナを探すという段階に行くのはまだまだかかるだろうし、不祥事からサナを買ったこと自体を揉み消す可能性の方が高いと思う。


 今、不安がっても何も変わらないので話をそらそう。

 「大丈夫だと思うわよ?あ、それから新迷宮の地図も一部手に入れたから見る?」

 特性【ビジュアライズ】を使い、ベッドの上に大きく新迷宮三階の地図を可視化させる。


 「ここが隠し部屋に通じている行き止まりで、この通路がサナと一緒にデミオークと戦った場所。」

 「あの通路がこの大きさってことは、凄い広い迷宮ですね。あと、ここの通路なんか色違いませんか?」

 言われてみればデミオークと戦う時にウロウロしていた通路の部分だけ色が濃くなっている。

 「一度通ったところは色が濃くなるのかしらね?」

 「なるほどー」


 レベル上げをするにも金を稼ぐにも隠し部屋の扉から迷宮内にショートカットするのが一番便利なのだが、王子様捜索隊とニアミスする可能性も高いので、しばらくは使わない方が安全だろう。

 迷宮の受付で誰が入ったのかを確認をしているところを見ると、受付を通らずに中に入って何かあったら問題になりそうな気もするし。


 どっちみち迷宮内の死体が3日で迷宮に食われるなら捜索隊が出たとしてもその期間+αくらいだろうから、しばらくは様子を見よう。

 死んだものと諦めてくれるかどうかという話もあるが、それを今考えてもしょうがない。

 とりあえずサナには王子様方の死体のことを知らせてないのでうまく答えてやれないのがもどかしい。


 「それじゃそろそろこの部屋を維持できる時間が終わりになりそうだから、ドヤ…じゃなかった簡易宿泊所の方の部屋に戻ろうか?」

 実際にはもう1時間ほど余裕はあるのだが、種族特性【トランスセクシュアル】で男の身体に戻り、トレイを手にしてそうサナを促した。


 「はい。あ、トレイあたし持ちます。」

 「じゃあお願い。」

 サナは何か自分に出来ることをしたい様子なのでトレイ運びはサナに任せ、簡易宿泊所の部屋に戻って来た。


 今後のことを考えて、特性【ビジュアライズ】でエグザルの街の情報を空間に可視化させる。

 全体までは必要ないのでこの建物周辺だけを拡大させた。


 「街の地図ですか?」

 「そう、いまいるのがココ。晩御飯は外で食べようと思うけどどうだい?」

 「あ、ここ夜市が立っているみたいですよ?」

 今いる建物から少し西に行ったところから街の交差点の噴水前まで18時以降は食べ物が中心の夜市が立つらしい。

 かなりの数の屋台が集まり、メニューも豊富で値段も安い。


 「いいね。お米食べたいお米。」

 「あ、あたしも食べたいです。白いご飯。」

 白鬼族は米食文化らしい。


 方針が決まったので簡易宿泊所の部屋を出て、そこから一回のホールに降りると丁度ウエイトレスが目の前を通りかかったのでそのままトレイを返す。


 西日が差し、赤く染まるホールは多くの人で賑わっている。

 こうしてみると探索者ギルド内は外と比べて幾分白人の割合が低いような気もするな。


 角ありの亜人を避けながらエグザル迷宮管理公社の建物から出て通路を真っ直ぐ西に向かう。

 正面に沈もうとしている夕日が眩しく、赤く染まる異国の街並みが幻想的だ。


 100mも進まないうちに屋台が並び始め、簡易的に設置されたテーブルや椅子がそれを囲み、少しずつ人が集まって来ている。

 晩御飯になりそうな食べ物がほとんどだが、お菓子や果物、飲み物のほか、ファーストフードにあたるような軽食の屋台も多く、遊戯と思われる露天などもちらほらと並んでいる。


 海外旅行で行った台湾の夜市を思い出すような光景だ。

 もう200mほど歩くと目当てのお店に到着した。店とメニューの雰囲気はそれこそ中華料理屋のような感じだ。

 席を確保し、ワンプレートに乗せた白いご飯の上に大きな焼いた肉と、茹でて味付けをした青野菜を始めとした副菜が3種類乗っている料理、それからテールスープを頼む。

 この際なんの尻尾かは問わない。


 サナは白いご飯と、鳥と木の実の揚げ物、あんかけ卵焼きを選んだ。

 あと番茶のようなお茶も2つ注文して、合計で銀貨1枚と銅貨51枚だったので、銀貨2枚でお釣りを貰う。


 しばらくすると料理が運ばれてきたが、サナのご飯が茶碗というか小さな丼に山盛りのご飯が乗っており、予想外の盛りの良さに思わずお互い顔を見合わせて笑ってしまった。

 取り皿とお椀をもう一個貰い、テールスープを始めとした副菜をシェアする。

 あと箸もあったのでそれも貰う。

 「おいしい!」

 「ちょっと味付けは濃い気はするけど美味いなこれ。」


 二人とも米の飯に飢えていたのか食が早い。

 「サナ、ご飯多くて食べきれないなら貰うよ?」

 「あ、はい。お父さん半分くらい取ってください。」

 サナの茶碗(?)からご飯を分けてもらう。


 このなんの肉だかわからない焼いた肉がスパイシーでご飯が進むのだ。

 というか、揚げ物や卵焼きの盛りも良く、サナ一人じゃ食べきれないのが見え見えだ。

 全部で3~4人前くらいの量がある。


 鳥と木の実の揚げ物もさっぱりとした塩味に香草が香っていて食欲をそそり、あんかけ卵焼きもカニ玉を思わせるような風味がとても口に合う。


 「食べた食べた。」

 「お腹いっぱいです。」

 二人して番茶のようなお茶を飲みながら人心地つく。

 このお茶は花のような匂いがしてスッキリとした飲み口だ。


 「あ、サナ、これ。お小遣い」

 「駄目です。お父さんには色々してもらってばかりなのでこれは貰えません。」

 サナに先程のお釣りとともに銀貨2枚を渡そうと思ったが食い気味に断られてしまった。


 この夜市で使うのもそうだが、自分で自由に使える現金を持っていて欲しいのもある。


 「じゃあ、これは迷宮でサナがトドメを差してくれたデミオークの分の報酬として渡そう。魔素核3つ分とカプセルの一部をおまけだ。」

 銀貨を1枚追加して改めてサナに渡す。

 「お父さん…。」

 「次も頼りにしているよ?」

 「ありがとうございます。お父さん。」

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