第五〇四話 「タツルギの街」
タツルギの街は簡単にいうと豪華なサルトの町だ。
森で囲まれた中に街があり、先が尖った丸太の塀と城門の上には物見櫓や哨戒スペースもあり、砦のような作りになっている。
流石に時間が早すぎるのか、門の前には旅人など誰も並んでおらず、眠そうに欠伸をしている警備兵が二人立っている。
その門番には最初、こんな時間に?と不審そうな顔をされたが、シルバーの認識票を見せると納得したのか、あるいは勝手に勘違いしてくれたらしく、「お疲れさん」と一言かけて中に通してくれた。
それにしても…
「門番が亜人族だったのは初めてだな。」
「あたし狼人族の人って初めて見ました。」
「タツルギの街は十二新興街でも一番亜人族の割合が高いって話ッスよ?」
ちなみにもう片方の門番は犬人族の男性だった。
正直、私には見分けが付かなかったのだが、ミツキは一発で見分けていたので、なにかコツがあるのか、あるいは亜人族同士とか、耳尾族同士とかなら分かる何かがあるのかもしれない。
それはさておき、街に入ったので、まずは淫魔法【夜遊び情報誌】でマップのチェックだ。
今は何より宿を取って横になって寝たい。
ホウマの街と同じく普通の宿を探したのだが、こちらは時間が早すぎて開いておらず、消去法として結果的に24時間営業になっている探索者ギルドの簡易宿泊所を目指すことになった。
ネローネ帝国領を越えているからギルドに泊まってもあちらに情報が漏れることが無いだろう。という判断もある。
タツルギの探索者ギルドは立派なログハウスで、入ってすぐの中央ホールに受付やレストラン、正面に迷宮行きの通路、左側が宿泊棟、右側が迷宮管理公社と換金所があるようだ。
ミツキのいうとおり、ギルドの中も、ほとんどが亜人族で占められており、亜人族が7、黄人族が2、白人族が1くらいの割合で、受付や係員も全員亜人族がやっているようだ。
と、いうか簡易宿泊所の受付の馬人族のお姉さん、引き締まった身体つきに褐色の肌、つややかな黒髪のポニーテールで、うなじが凄いセクシーだ。
ミツキも、もう少し歳を重ねたら、こんな風に色気が出てくるのだろうか?
いや、今は色気がないという話ではないのだが。
いかんな、疲れているせいか、ちょっとムラムラ来てしまいそうだ。
駄目だ、とりあえず部屋を借りて一寝しよう。
その馬人族のお姉さんから部屋の鍵を受け取り、宿泊棟の奥の部屋へと急ぐ。
「西本社側の亜人族の人たちまで多いんだね。」
「タツルギは回りを深い山々で囲まれている関係で、近くに亜人族の集落が多いらしいんスよ。」
サナの口ぶりからすると、サナみたいな鬼族を含む東本社側の種族よりは、ミツキみたいな兎人族を含む西本社側の亜人族の方が人里ではレアらしい。
前にそれぞれの本社の種族を見たときに、ベースとなる動物が野生かどうかで西本社側か東本社側かに分かれているような印象を受けたから、そのせいもあるのかもしれない。
「ついたよ。」
「はーい。」
「お先ッス!」
充てがわれた簡易宿泊所の部屋の扉を開き、サナとミツキを中に促した後、自分も入り扉を閉める。
で、そのまま、その扉に淫魔法【ラブホテル】をかけて、サオリさんやチャチャが眠るいつもの別荘へと繋げた。
「ひとっ風呂、とも思わないでもないけど…」
「いやーもう限界ッス。パパ、先に寝よ?」
「うん、ちょっとだけ仮眠とってからの方がいいと思います。」
自分が汗臭いかな?と気を使ったつもりが、ミツキもサナも先に寝る気満々だったらしい。
慣れない自動車で二人も神経を使っていたのかもしれない。
サオリさんとチャチャが寝ている寝室とは別の居間に近い方の寝室に布団を用意して三人で横になった。
「少しでも楽になるように、眠りの魔法かけるよ?」
「了解ッス。」
「はい。あ、その前に……お父さん、お疲れさまでした、お休みなさい。」
チュッ
「あー、アタシも!パパ、お休みッス!」
チュチュッ
二人にそんな風にお休みのキスをされた後、左右から抱き枕にされた。
「二人ともお疲れさまでした。また今日もよろしくね。おやすみ。」
こちらからも改めて首だけを動かして二人にキスをした後、淫魔法【睡眠姦】を唱える。
効果時間はサナで1時間20分、ミツキで1時間25分と短いながらもこれで起きた時には、かなりさっぱりしているはずだ。
ちなみに自分自身にかけると1時間なのだが、二人が起きるのを待つよりもう1セットかけて二度寝してしまいそうだな。
チャチャにゃぁ。
なんか物音がしたような気がするにゃぁ。
ネネさん、もう起きて朝ごはんの支度を始めたのかにゃ?
次回、第五〇五話 「困るチャチャ」
それならチャチャも起きてお手伝いいなきゃにゃぁ。
あれ?昨日はチャチャ、ベッドで寝てなかったかにゃ?




