第五〇三話 「階層世界」
と、ここまで考えてみたは良いものの、実際のところ、ここが元の世界の遥かな過去、あるいは未来だとかは考えていない。
せいぜいパラレルワールドといったところだろうが。
前にミツキにも話したことがあるが、元の世界の下層世界に淫魔の身体の元となったサキュバスがいたゲームの世界があり、さらにその下層世界に今いる世界があると考えた場合、単純にどちらかの下層世界でマップを使いまわしているだけ。というオチもありえるだろうからだ。
重なる世界の一部がゲームの世界という創作上の世界を挟んでいる以上、今いる世界も創作上の世界に準ずると考えるのが順当だろう。
それをいったら元の世界だって、どこかの上層世界の創作上の世界だったり、あるいは、なんらかのシミュレーターの中身だったりする可能性だってありうる。
昔、そんな感じのホラー小説あったっけな。
「お父さん、考え事?」
「あ、いや、次の町まで、あとどれくらいかかるかな?と思ってね。」
ちょっと考えすぎて動きが止まってしまっていたのか、サナにそういわれて我に返る。
とりあえずの目的は、タツルギの街に比較的近いシーナイの港町だ。
距離としてはムーアの港町から今いる国境までの距離の2倍強。
車中でミツキに港町の朝は早いから日の出までしかこの目立つ自動車は使えないと釘を刺されていたが、さっきまでのペースならあと1時間前後で着くはずなので日の出までには間に合いそうだ。
「一気に行っちゃうッスか?」
「いや、日の出前に着きたいのは山々だけど、無理して事故を起こしてもしょうがない。
さっきみたいに休憩所で休み休みいくよ。」
「はい、わかりました。」
「了解ッス。」
▽▽▽▽▽
「思ったより早く着いたッスね。」
「港町に近づくにつれて道も綺麗だったしね。」
「これ、暗いうちに町中抜けて、タツルギへの街道に出てしまうのも手だな。」
「アリッスね。街道に人が動き出す前に、少しでもタツルギに近づいておくのは賛成ッス。」
「じゃぁ、しょーとかっと作ったら、すぐ出ます?」
「そうだな、また来る必要があるかもしれないから、それは作っておこう。」
▽▽▽▽▽
「意外と山道も綺麗なもんだな。」
「たぶん、タツルギ、ムーア間は、結構馬車が走ってるんだと思うッスよ。
タツルギは山の中の街っすから、魚介類の需要があるんだと思うッス。」
「野営してる人、いるかと思ったらいませんね。」
「山の中過ぎて危ないから強行軍するんだと思うッスよ。ほら、こんな近くに熊も出てるッス。」
そういいながらミツキが特性【ビジュアライズ】による周辺マップをサナに広げて見せていた。
▽▽▽▽▽
「森の中だから分かりづらいッスけど、あとちょっとでタツルギッスよ。」
「次を右に曲がったら見えてくるくらいかも?」
ムーアの港町から1時間弱、今は外も明るく、林道の状況も良いため、ミツキと一緒にサナもナビに加わっていた。
「どれどれ。」
車を止め、特性【ビジュアライズ】で表示させているマップを覗き込むと、タツルギの街までは、およそ2キロ前後といったところだ。
「そんなに遠くないな。ここからは歩くか。」
「はい。」
「了解ッス。あ!旅人らしい恰好しといた方がいいッスね。」
「ああ、そうか。」
ミツキに言われ装備と荷物を整え直す。
防具や武器は変わっているものの、バックパックなどは以前3人でエグザルの街を旅立とうとした時に揃えたものだ。
「ちょっと懐かしいですね。」
「また誰か切りかかってきたりしないッスよね?」
サナとミツキもそんな事をいいながら笑い合っている。
「ふぁ…。」
それを見て気が抜けたのか、不意に欠伸が出る。
休憩を挟みつつだったものの、車の運転で気が張っていたようだ。
「パパ眠そうッスね。」
「徹夜だからなぁ。」
「街についたら、みんなで一寝しましょう。あたしも少し眠くなってきました。」
「そうッスね。でもその前に、もうひと踏ん張り歩くッスよ。」
「それじゃ眠気覚ましに歩くかぁ。」
「「おー!」」
サナです。
こうして三人で歩いていると、少し前のことを思い出します。
お母さんや、ちーちゃんには悪いと思うけど、昨日の晩からずっと、お父さんとミツキちゃんと一緒にいられて、楽しかったです。
次回、第五〇四話 「タツルギの街」
ふぁ…それにしても眠気が…朝ごはんどうしよう…。




