第五〇一話 「ドライブ」
現在の状況的には深夜の海岸線をドライブしている。と、いった感じではあるのだが、実際のところ元の世界でのそれとはちょっと様子が違う。
というのも舗装道路の運転と砂利混じりの自然の石板道路ではどうしてもタイヤのグリップ力が違うのだ。
それに加えて海側にガードレールなんて気の利いたものはなく、高めの金杭にロープを渡したものだけが道路幅を主張していて、そこから下は海または岩場だ。
なので落ちたら少なくても運転手側の命は保証できない。
イメージとしては田舎にある砂利引きの河川敷を走っているようなものだ。
転落するとただでは済まない。
ライトを遠目にしながらも道路の先を私が海側の道幅を中心に、サナが山側の落石等の路面状況を中心にチェック。
海岸線を削っただけの道路なので真っすぐな部分などはほとんどないため、ライトが照らす先の道の状況を特性【ビジュアライズ】で表示した周辺マップを見ながらミツキがナビゲートしている。
それだけ手間を掛け相当速度を落とした運転をしていたとしても、
「この自動車って奴、めちゃめちゃ早いッスね。」
「馬車の何倍くらい早いのかな?」
と、二人が驚くくらいのスピードでアサーキ共和国との国境へと向かっていっている。
最初のころは砂利や岩場の関係で上下に跳ねる乗り心地に不安がっていた二人だったが、今ではそんな感想が漏れてくるくらい慣れたようだ。
「馬車に比べたらか……ざっと6~8倍くらいかな?」
スピードメーターを見ながらそうサナの問いに答える。
馬車といってもそのスピードは様々だが、たとえば都市間馬車のスピードは徒歩と同じくらいか少し早いくらいだから時速5キロ強といったところだろう。
最初のころはともかく、今は大体時速40キロ弱くらいでハイ○ースを走らせているので、だいたいそれくらいの計算になるはずだ。
「8倍……。」
「それなら馬車で1日分が1時間くらいで着いちゃう計算ッスね。凄いッス。」
「道が悪いから、これでもあまりスピードを出せてないほうなんだよ?
元の世界では10倍から20倍の速さで運転するものだし。」
「そんなにッスか!?」
「なんか忙しそうな世界ですね。」
サナの感想にちょっと頬が緩むが、さっきのミツキのナビによると、そろそろマップが切れるところだ。
油断せずに安全運転で行こう。
▽▽▽▽▽
「あそこが国境兼休憩用スペースッス。って、アタシも初めて入るんスけどね。」
「ミツキちゃん、あの小屋は?」
「なんスかね?ちょっと暗くて分からないッス。」
「ほかの馬車とかはないみたいだから、そのまま乗り入れてみようか。」
ミツキの指さす先には、自動車なら20台くらいは停められそうなスペースで、イメージとしては建物が木目調の高速道路のパーキングエリアだ。
サナのいうとおり大小いくつかの小屋が立っており、それらがある奥側のスペースは石板ではなく砂が敷き詰めているようだ。
おそらくテント等を立てるためのスペースなのだろう。煮炊きをした後なのか炭化した木が固めて寄せてあった。
「こっちは水小屋みたい。」
「こっちがトイレッスね。」
車から降りて大きく伸びをしていたと思っていた二人は、いつのまにか小屋の中身を確認しにいったらしい。
単純にトイレ休憩がしたかったのかもしれないがな。
それにしても水小屋という、あまり聞きなれない言葉に興味があり、先程サナが開けていた方の小屋を訪れる。
「なるほど、たしかに水小屋だ。」
小屋の中には大きな水瓶が置いてあり、そこに延びる竹で作った水管が並々と水を注いでいる。
おそらく湧き水を蓄えるための部屋なのだろう。
海風で飛んでくるゴミや崖の上からの落下物から水瓶を守り、綺麗な水を貯える仕組みになっているらしい。
よく見ると水瓶の底近くから水が漏れるようになっているので中の水が淀むこともなさそうだ。
竹の水管から手の平に掬い、一口飲んでみると、なかなかに冷えて美味しい。
飲み口からすると結構硬度が高い水のようだ。
何かに使えるかもしれないから、少しメニューのアイテム欄にいただいて行こう。
お仕事の前に一息つけたのはラッキーだ。
そう思いながら小屋を出て少し身体を動かしてほぐした後、淫スキルを使う。
チャチャにゃー。
うーんむにゃむにゃ…もう食べられないにゃぁ…。
次回、第五〇二話 「地図」
え!これもかにゃ?
うにゃぁ、お勉強ならしょうがないにゃぁ、困ったにゃぁ、美味しいにゃぁ…。




