第四九八話 「暗部」
この人影、カレルラがいっていた私達を探しているという暗部や情報部のうち、おそらく前者であろうを彼等をレーダーで発見出来たのは全くの偶然だ。
おそらく情報部であろう赤く光る光点に気づいた時に、別口で屋根裏に潜んでいるのをレーダーで見つけたのだ。
この暗部の怖いところは、さっきミツキが言っていたとおり、攻撃の直前まで害意を表さない、つまりレーダーでも赤い光点として見つけることが出来ないのが1つ。
今回だって隣のスイートルームの天井裏に人がいるという不自然さから、たまたま気づいたものの、これが街中など人の多いところだと、それらに紛れて気づくことは困難だろう。
そして2つ目は、その不自然に天井裏にいる人物が、先ほどの団体とは合流せず、独自に一回私達の部屋に侵入してきたり、先程の団体さんの行動中にも関わらず天井裏に一人、ドアの影に一人潜んでいたりと、隠密性が非常に高いことだ。
その上、個々の戦闘力もランク4の私を翻弄するくらい高いので、なるべく相手をしたくないのが本音だ。
先ほどのラブドールでの変わり身も触れもせずに見破っていたようだし。
ただ確かに怖い相手ではあるのだが、今回はある程度の時間、観察が出来たので幸いそこから見えてきたものもある。
暗部二人の動きからして、おそらく情報部とは私達の情報を共有しておらず、暗部は情報部からそれを得ているらしいのだ。
現に屋根裏に潜んでいた暗部の一人は、今も情報部の団体を追うように付いて行っている。
当たり前のようだが情報収集能力自体は情報部の方が高いようで、おそらくエグザルの街周辺だけでなく、ネローネ帝国領内にも網を張っているのだろう。
「おとうさん、あの人、部屋で何か始めたみたいです。」
サナの声で意識を部屋の様子が映っているテレビに戻すと、居残った暗部の一人が手のひらより少し大きいくらいの呪具らしいものを構えながら、声は聞こえないものの何か呪文を唱えているようだ。
そしてその呪文が唱え終わったと思った瞬間、テレビ越しにその暗部の一人と目が合った。
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「いやーあれはビックリしたッスね。」
「うん、ここが見つかっちゃったかと思った。」
「本気で気をつけないとならない相手みたいだな。」
まるでホラー映画を見ている時かのように左右からミツキとサナに抱きつかれながら、テレビに映る誰もいなくなったスイートルームの映像を眺める。
先ほどの暗部の一人は私の魔法による監視に気づいたかと思うと、そのまま天井裏から音も無く出て行ったのだが、テレビ越しとはいえ目が合うのは心臓に悪い。
その後、部屋には何人かの店員風の男たちが訪れて片付けをしていったが、これがさっき情報部のリーダーらしき赤いスーツの男が言っていた第4班というやつなのだろう。
証拠隠滅専門のグループなのかな?
一応、その男たちが部屋から出るのを見届けてからテレビの表示を消した。
「念のため、もう部屋には戻らない方が良さそうだな。」
「でもあのお人形さんたちはどうするんですか?」
私の提案にサナがそう疑問を呈する。
あれほど精巧な人形なのでもったいないとでも考えたのだろう。
「あれは魔法で出したものだから一定時間で勝手に消えるから大丈夫。
しょうがないから今日はまた別荘で寝るか。」
「あー、パパ、提案ッス。」
「ん?」
右腕に抱きつきながらもミツキがそういって手を小さく上げる。
「この部屋から出る先は馬車の扉からもアリなんスよね?
なら夜中の今の時間なら、ほとんどの馬車は安全に出られるところもあるんじゃないッスか?」
なるほど。日中だと運行中だったり人目がつくところにあるであろう馬車も、この丑三つ時ならミツキのいっているとおり安全とまではいかないまでも密かに出れる可能性は高い。
「ふむ、いいアイディアだな。少し確認してみるか。」
抱きつかれている腕を引き抜き、その手でミツキの頭を撫でながら、特性【ビジュアライズ】で、今度は淫魔法【ラブホテル】の部屋からの出入り先をテレビに表示した。
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「流石にアサーキ共和国領まで出れる。なんて美味い話は無さそうッスね。」
テレビの横に同じく【ビジュアライズ】でマップを広げて、ある程度土地勘と知識があるミツキに確認して貰う。
「あ、でも、いいところに停まっている馬車があるッスよ。」
「それは地図だとどの辺りになるんだい?」
テレビに映る馬車の位置とマップを指差しながら確認しているミツキの答えを待つ。
「ミスネルの街にほど近い漁港町『ムーア』、アタシの元故郷ッス。」
サナです。
確かに魔術や魔法を感知する魔術や魔法があるのは知ってましたが、魔法越しとはいえ目が合ってビックリしました。
実はもう一人くらいお部屋にいたりして…。
次回、第四九九話 「ムーアの港町」
ん~怖いです。
今晩はお父さんと一緒に寝させて貰おうかなぁ…。




