第四九五話 「深夜(前編)」
今日は2周年記念日なので朝夕の2回投稿です。
また、今回はレン視点ではありません。
一課より確認の連絡が入って5時間、さすがにそろそろ対象者は寝静まっているところだろう。
運河の灯りも消え、人通りもなく、酔っ払いすら歩いていないこの時間、状況を開始するには良い時間帯だ。
それにしても黄人族の男と白鬼族の娘(ただし後者は角が小さいため人族に見える可能性あり)の二人組を含むパーティーなどという雑な第一報を受けた一課には同情もするが、その後、駆り出される諜報部二課も他人ごとではない。
第二報の茶兎族の娘を含む3人組という追加情報が入ってからは帝国側での諜報部二課の出番が減ったのは幸いだが、網を張っていたヒツシプではなく、いきなり本丸での目撃情報となると流石に確度に難があろう。
ヒツシプや王朝側に人員を割かざるを得なかった分、ホウマでのメンバーは遠征組と比べ質も量も不安が残り、如何ともしがたいが、難があろうが無かろうが、人がいようがいまいが、結果を残すしかない。
なに、王朝側でヤバい橋を渡っている暗部の目を潜ってきた対象者を諜報部二課が帝国内で暗部を出し抜いて抑えたとなれば、暗部の株は下がり、諜報部自体の立場も上がるだろう。
これは逆にチャンスと考えるべきだ。
問題は情報にない白鬼族の女と白猫族の娘だが、未だ王朝側からの情報がない以上、全員を攫う以外の選択肢は無い。
最初から全員、泊まらなかった事にする方が後始末が楽なのはいうまでもないのだから。
「……そろそろ時間か、予定どおり第一班は天井裏から『煙』、第二班は窓から『息』を追加後、同じく窓から侵入しマルタイ(大)を含む2名を確保、第三班は正面より侵入し、クスリでマルタイ(小)を含む3名を確保だ。
状況開始よりカウント300で第一班は工作開始、第二班は続カウント300で開始、突入はカウント600で合わせる。
年齢的に第二班のマルタイ組の方が高レベルの可能性が高い、『煙』や『息』の効きに頼り切らず、十分注意すること。
なお、第一班は工作終了後、予定どおり換気と第三班の搬出の補佐を行うこと。
それでは、状況開始!」
号令一下、目の前に待機していた黒ずくめの男たちが一斉に動き始める。
4名はここ3階のスイートルームにあるウォークインクローゼットの中から天板を外し、天井裏から隣の部屋の天井裏へと、5名はドアから、4名は窓からこの部屋を出て所定の場所へと向かって行く。
他国で仕事を任せられるほどではないとはいえ、数々の現場を熟した諜報部二課メンバーだ。
めったな事が無い限り失敗という結果はないだろう。
カウント150
そろそろ全員配置についたところだろう
カウント300
工作開始だ。
煙を吸って寝る阿保がいないことだけを祈ろう。
「たいへんです少佐!」
俺の伴侶役としてこのスイートルームに泊まる設定の少尉がノックもせずに部屋に飛び込んでくる。
私と揃えた赤いスーツのせいか若く見えるが、こうみえて現場からの叩き上げで他の隊長からの覚えも良いのだが、そんな彼女が戦場以外で、こんなに慌てるのは俺も初めて見る。
「何があった少尉。完結に延べよ。」
焦る少尉を一喝し、落ち着きを取り戻させる。
「はっ!失礼いたしました。状況を報告いたします!
マルタイに同行している白鬼族の女の身元が判明いたしました。
マルタイ(小)の母親で、名前を『サオリ・サオトメ』、サビラキ・サオトメの長女です!」
「『金剛鬼』の娘だとぉ?!」
「どうやら暗部が諜報部に情報工作を行っていた模様です。」
暗部のクソッタレめ!諜報部を下げて自分たちが上がることばかり考えやがって!
「今更作戦は止められん、奴らが情報工作を入れて、このタイミングでそれが漏れたなら横槍で油揚げの可能性すらある。
少尉は2階に待機している第4班を率いて暗部の警戒に当たれ、最悪騒ぎになっても構わん!暗部に持って行かれるよりはマシだ。
その時には三課さんに泣いて貰う。
現場には直接俺が向かう。」
「了解いたしました!」




