第四八四話 「密談」
「少し時間くださいね。」
エプロンをつけつつ、厨房の方へ消えていくサナ。
「アタシも手伝うッスよー。
あ、ママさん、チーちゃんとバター作って来てくれると嬉しいッス。」
サオリさんにそういい残し、サナを追いかけるようにミツキも厨房に消えていった。
「それじゃチャチャちゃんは、わたしと一緒にバター作り体験にいってきましょうか?」
「あい!」
サオリさんとチャチャは二人、手を繋いでロマへ会釈をすると別棟の体験工房の方へと向かっていった。
「その間、私たちは一杯やって待ってましょう。」
メニューのアイテム欄から出した瓶を片手で2本持ち、もう片方の手の親指で厨房に隣接している食堂の方を指してロマを誘う。
「お、それか?女将がいっていたカクテルって。」
「流石に耳が早いですね。」
▽▽▽▽▽
「なんかジュースみたいだな。」
「それでも結構度数高いんですよ?この間もサオリさんやミツキが自分で混ぜる量間違えてひどい目にあってました。」
「飲みやすさにかまけてガバガバいったのか。だが俺には酸味が強くて駄目だな。」
前に夜市で飲んでいたソルティードッグ風カクテルをロマにも勧めてみるとそんな感想が帰ってきた。
駄目とはいいつつ、ちゃんとグラスは空けている。
グラスは食堂からの借り物だが木のコップと違ってカクテルの分量を間違えなくていいと思ったが、これだともう一組借りた方がいいな。
「こっちの方が良かったですか?」
空いた時間で淫魔法【ラブホテル】のショートカットを使ってルーオイの港町にある酒造から買いだめしてあった焼酎『鬼渡り』をアイテム欄から取り出す。
地味に清酒『鬼盛り』を含め、その酒造のお酒はある程度、サナの里へのお使い用に多めに買ってあったりする。
『鬼盛り』はロマにお祝いとしていただいたばかりなので、ここはやはり、『鬼渡り』の方の出番だろう。
「それは良い物を持ってるな。そっちにしよう。」
「いい物なら、アタシも持って来たッスよー。」
その声に振り向くと、エプロンをつけトレイを持ったミツキがいた。
うん、やっぱり新妻というよりウエイトレス感の方が強いな。
「サナちーのいってたとおり、やっぱり二人で飲んでたッスね。」
あきれた顔というより、いたずらっ子を見るような、しょうがないなーという顔をしながら、テーブルに皿を並べていく。
「これでも食べて待っててって、サナちーからッス。こっちの串はアタシ製ッスよ。」
「ありがとう、ミツキ。サナにもお礼いっておいて。」
「これは美味そうだな、遠慮なくいただこう。」
ミツキの説明によるとサナの作ったのはベーコンと青菜の蜂蜜からし炒め。
拍子切りにしたベーコンと、ざく切りにした青菜を蜂蜜と粒マスタードで作ったソースで炒めたものだそうな。
ビールが無いのが悔やまれる。
もう片方はミツキの作ったベーコンとキャベツのバーベキュー風焼き。
ブロック状に切ったベーコンとキャベツを串に刺して胡椒をかけて焼いたものだ。
あれだけ良いベーコンならシンプルに美味いはず。
「あとで感想聞かせて欲しいッス。じゃ!」
私に向かってウインクしてそういうと、ミツキはまた厨房の方へ消えて行った。
▽▽▽▽▽
「いや、美味いな。」
「これはお酒が進んでしまいますね。」
サナとミツキの料理に舌鼓を打ちながら、ロマと何杯も杯を重ねるが、真昼間からなので駄目人間感が拭えない。
「いや、まったく。では飲みすぎる前に話をしておくか。」
そういって破顔していた顔をスッと真顔に戻すと、ロマが懐からスッと手紙を出してこちらに渡してくる。
「レンに折り入って頼みがある。」
「サビラキさんに渡せばいいんですね?」
「話は早くて助かる。」
そういってロマは神妙そうに頷いた。
ミツキッス。
良いベーコンなんだからそのまま食べたらいいとアタシなんかは思うッスけど、サナちーは、もっと美味しくしてあげたい、もっと美味しくして食べてもらいたい。って思うみたいッス。
次回、第四八五話 「例の件」
その辺りの意識が料理の腕が上がるか上がらないかに影響するんスかね?




