第四七二話 「お揃い再び」
流石に隷属の首輪のように首に巻くのは抵抗があったので、サオリさんの差し出した細い手首にチョーカーを二重巻きにし、ブレスレットとして贈った。
最後にサナとの対比で太陽をモチーフとした金具に細いベルトを通し、手を取ってサオリさんの前まで持ち上げる。
「かかさんには首輪じゃなくて腕輪なのにゃ?」
ベーコンの匂いがまだするのだろうか自分の手のひらをテチテチと舐めながらチャチャが覗き込んでくる。
あれ?と思ったがベーコンはサナが回収したのか。
サナはそれを台所のまな板の上に置いた後、濡れた手ぬぐいを片手にこちらに向かってきている。
「同じやつッスよ。ほら。」
チャチャの問いにミツキが自分の首からチョーカーを外し、サオリさんに私がしたように自分の手首に巻き直す。
「にゃるほどー。」
「そんな、わたしにもいいんですか?」
「ええ、みんなの分を用意しましたから。だからチーにもあるよ?」
「にゃ?!チャチャもお揃いの貰えるのにゃ?」
自分の分はあると思っていなかったのか、目を見開き猫耳と尻尾を立ててびっくりしているチャチャ。
その手を濡れ手ぬぐいでサナが拭いてやっている。
両手でチョーカーの端と端を持ってチャチャに見せてやると、キラキラとした目で眩しそうにそれを見ている。
「猫さんのマークにゃー。」
「ねぇねが兎さんで、ねねさんがお月さんで、かかさんがお日様のマークだけど、あとはお揃いだよ。」
「お揃い嬉しいにゃー。」
チャチャがつけてつけて、といわんばかりに首を伸ばして差し出してくる。
ちなみにチャチャのチョーカーはオレンジ、サオリさんは白鬼族の種族衣装に合わせて藤色だ。
「きつくないかい?」
「大丈夫にゃー。」
嬉しそうにチョーカーの形を指でなぞっているチャチャ。
その横ではサオリさんも親指の平でブレスレットの感触を確かめている。
「レン君、ありがとうございます。」
「ととさん、ありがとにゃー。」
うっすらと頬を赤らめ、はにかんだ顔で礼をいうサオリさんと、90度に届くほど凄い勢いで頭を下げるチャチャ。
「大切にしますね。」
「するにゃー。」
喜んでもらえたようでなによりだ。
「あ、それからチャチャにはこれも渡しておこう。」
眷属化した後に外してそのままにしてあった淫魔の契りの指輪もチャチャに手渡す。
「これもくれるのにゃ?チャチャ、指輪も初めてにゃ。無くさないようにしまておくにゃぁ。」
「いや、しまっておかないで、ちゃんとつけておこう。」
渡した淫魔の契りの指輪をポシェットにしまおうとするチャチャを止め、その左手の小指につけてやる。
「落ちたりしないにゃ?」
「言われてみれば落ちたりズレたりしないッスよね。この指輪。」
「お父さんが外さない限り取れないから大丈夫だよ。」
慣れない指輪に心配そうなチャチャをそういって宥めているサナ。
前に試した事があるのだが、この指輪、眷属化された対象は回すことは出来ても外すことはできないのだ。
こうみると、まるで呪いの装備っぽいな。
「指輪に関しては、サナとミツキでおいおい使い方を教えてあげて。」
「わかりました。」
「了解ッス!」
「お揃いが二つも嬉しいにゃー。」
▽▽▽▽▽
「このベーコンさんは、さっきのベーコンさんなのにゃ?」
「あれはお土産用だから、これは別のベーコンさんだよ?」
「サナちーまでベーコンに『さん』付けなくてもいいと思うッスよ?」
テーブルの上に所狭しと料理が並ぶ。
その上にはチャチャが注目しているベーコン料理も乗っている。
イメージとしては全てが極太の青椒肉絲。ただし肉をベーコンに変えて皮つきポテトでボリュームを増したという感じの料理だ。
ちなみに夜市のおかみさんの手によるものだ。
ベーコン好きというか、ベーコンに強い思い入れのあるチャチャのために夜市にベーコンを持ち込んで作って貰った。
「このベーコンなら、そのまま塩コショウで焼いて、好みで、からしつけるだけで十分美味しいわよ。」と、おかみさんにお墨付きをもらえるほど良いベーコンらしい。
サオリです。
男の人から贈り物をいただいたなんて、何年ぶりかしら…。
たしか、あの人以来よね…。
次回、第四七三話 「本日の主役」
あ、駄目、嬉しくて、ちょっとにやけちゃう。




