第四七○話 「賄賂」
「これからも…」
「一緒ッスよ…。」
そういって抱きついてくる二人を優しく抱きとめると、鼻に香る二人の髪の毛の匂いで安心してしまう。
相変わらずペシペシと顔に当たるミツキのうさ耳をかわしながら、二人の髪の毛の間に顔を埋め軽く頬ずりをする。
「えへへ。」
「くすぐったいッスよ。」
そう笑いながらも左右から頬にキスをしてくれる二人。
なんだこれ?凄い幸せだ。
二人の腰に回した腕に力を入れ、もっと近くに、そうこのまま一つになりたいと思う気持ちごと強く抱き寄せる。
「お父さん……」
「パパ……」
「ゴホン!……それくらいにしておいてくれないかね。」
「え?!」
「ふぇ?!」
声に驚き、顔を上げた先には扉を開けたまま固まっている支配人の姿があった。
▽▽▽▽▽
気まずいのもそうだが、ついつい二人に夢中になって淫スキル【夜這い】によるレーダーを気にしてなかったことを反省しなければ。
いや、実質危機感知スキルであるスキル【マゾヒスト】に反応はなかったので敵意はなく、大丈夫だとは思うのだが最近ちょっと気が緩みすぎな気がしないでもない。
レベルとランクが上がって、知らず識らずのうちに油断しているのかもしれないので、少し気を引き締めていこう。
なにせ今回の事件で、少なくてもこの街での有力者にとっては有名人になってしまっているだろうから、どこで変な横槍が入るかわからないのだから。
「改めましてサナ・サオトメさん、この度は奴隷解放おめでとうございます。
当方が存じ上げない事とはいえ、貴女には辛い思いをさせてしまったかと存じます。
つきましてはお詫びと解放のお祝いを兼ねまして、こちらを受け取っていただきたいのですが。」
テーブルを挟んで向かいに座っている支配人がそういってタバコの箱より一回り大きいくらいの木で出来た小箱をテーブルの上で滑らし、サナの前へと置いた。
淫スキル【淫具鑑定】で調べて見ると、どうやらこの化粧箱には大金貨が1枚入っているらしい。
流通している通貨としては白金貨の次に高い通貨で、価値としては金貨の10倍、銀貨の千倍。
これ2枚で奴隷としてならサナやミツキが買えたくらいの金額だ。
『中身は大金貨が1枚入っているけど、受け取っちゃ駄目だよ。』
『そうッスね。』
『よくわからないので、お父さんにお任せします。』
咄嗟に念話で打ち合わせをした後、隣のサナの前に置いている小箱を自分の前にスライドし、そして更に支配人の前へと返す。
「これは受け取ることが出来ません。」
「もうサナさんの主人ではない貴方にそれをいう権利はないかと思うが?」
ま、そうくるよね。
「奴隷に対する主人ではないですが、私はサナの父親ですから保護者として口をだす権利はあるかと思います。」
サナはこう見えても白鬼族の女性としては成人しているので、いうほど権利はないのだが、狙いはそこじゃない。
「父親?と、いうことはサオリ・サオトメ氏の…」
「先程、支配人は当方が存じ上げない事とはいえと、おっしゃいましたね?」
支配人が勝手に解釈しはじめている内に畳み掛ける。
相手の言い分は、「俺は知らなかったけど悪かったとは思ってるから、これ(大金貨)で許してくれ」だ。
おそらく正確には、許したと『金剛鬼』サビラキ・サオトメに伝えてくれ。という賄賂に類するものだな。
受け取った=許したとはならなくても、相手に有利に働くことは間違いない。
支配人は本当に知らなかった可能性もなくはないが、今回の事件に関して言えば公認奴隷商は奴隷落ちしたサナ達にとって加害者側なのだ。
今回の件は刑事事件としては奴隷解放で決着としても、ここから先は民事事件の話となるので、カレルラに鍛えられてランクの上がったスキル【交渉】に、同じく【交渉】持ちのミツキのサポートを交えて、人物鑑定でサオトメ姓が分かるのに知らなかったという話にはならないだろう、などなど、公認奴隷商の責任を追求していく。
そもそも素直にサナへの詫びだとしても、サナの売値の半分じゃ誠意以前の問題だ。
その金額を知ってか知らずか、それともこれが仕入れ値の値段なのかは別として。
ゴネる気はないが、加害者側に甘くすると里に行った時のサオリさんの立場が悪くなるし、最悪、『逆襲の金剛鬼』がここエグザルの街で始まってしまうと、今度はロマ達の立場も悪くなるし、公認奴隷商どころか街が危ない。みたいな印象がある。
ここは、双方が納得できる、それなりの落としどころというものが必要だろう。
サオリです。
うん、チャチャちゃん上手ね。
ええ、ちゃんと書けているわよ?
でも、本当に上手ね?やっぱり手先が器用だからかしら?
次回、第四七一話 「おみやげ」
これはレン君のいう『すていたす』の高さが関係してるのかも知れないわね?




