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第四六五話 「箸とフォーク」


 淫魔法【ラブホテル】で繋げている今の貸別荘にある露天風呂は、露天といっても元々は温泉地の民家を改造したものなので、ちょっと変わった構造になっている。


 具体的には内風呂の窓と露天風呂は繋がっているが、直接人が出入りするようにはなっていないといった作りで、内風呂に繋がる脱衣所に外への裏口があり、その裏口を改造して壁沿いに通路をつくり、内風呂の真横に露天風呂を増設したという構造だ。


 なので内風呂から見ると、窓の外に3畳ほどの洗い場スペースとプラスチックの椅子、そしてその奥に大きな露天風呂があるといった感じになる。


 つまり結構広い。


 その洗い場スペースに内風呂の窓から半円状に縦に割った竹が伸びている。

 いや、伸びているというより、わざわざ用意したので伸ばした。が正しいのだが。


 もちろん節も取ってあり、ホースを使って水も流してある。


 「これはなにをするものなのにゃ?」


 洗い場スペースの方で箸をグーで持ったまま、チャチャが頭かしげている。


 そこまで露骨じゃないものの、チャチャを先頭に竹を間にして互い違いに並んでいるミツキやサオリさん、そしてサナも不思議そうな顔をしている。


 もっとも準備をお願いしたサナはこれから何を食べるかは理解しているし、サオリさんあたりも手に持っためんつゆで、ある程度察しはついているだろうが、表情からして少なくてもこっちにない文化っぽい。


 よし、これならたぶん楽しんで貰えるだろう。


 「これはね、流し素麺をする道具だよ。」


 内風呂側から窓越しにそうチャチャに語り掛けるが、ピンときていない様子だ。


 もっともチャチャの場合、「素麺ってなんにゃ?」ってところからだとは思うが。


 ついでにいうとこの麺、乾燥はさせていても熟成させていない上、素麺ほど細くもないから実際のところ、ひやむぎに似た細いうどん、つまり厳密にいうとこれからするのは『流し細いうどん』なのだが、ここは流し素麺と言ったもの勝ちだろう。


 「逃げる麺を捕まえて食べるご飯といった方が分かりやすいか?とりあえず一回やってみよう。」


 サナがあらかじめ一口サイズにまとめてくれていた素麺を一つ、竹の上の流水の上に置くと思ったより早いスピードで流れていった。


 「にゃ!?」

 「おっと?」

 「あら?」

 「取れました!」


 竹で作った水路に注目していた3人がサナの声で一斉に振り返る。

 その視線を確認した後、ゆっくりと、めんつゆをつけてつるんと素麺を食べるサナ。


 「冷たくて美味しい!」

 「ねねさんいいにゃぁー。」

 「あー、なるほど、捕まえるってより…」

 「本当に美味しそうね。」


 サナの感想に対して口々に感想が漏れる。


 「次いくよ。」


 その声で視線がまたこちらに戻って来る。

 サナが一発で要領を掴んだみたいだから、次は連続して2つくらい行ってみるか。


 「ほい、ほいっと。」


 「にゃ?!」

 「こうッス!」

 「あ、そうね!」

 「ふたつめー。」


 チャチャが猫じゃらしにじゃれつくみたいに挑むが、失敗して跳ね返った水で濡れているのがちょっと面白い。


 今回はミツキとサナが捕まえたようだ。


 「美味しいッスね。」

 「でしょ?」


 嬉しそうにモグモグしている。


 「うにゃー、次、ととさん次お願いにゃ。」

 「うふふ、楽しそうね。」



▽▽▽▽▽



 「行くにゃよー!」


 サナのアドバイスで箸をフォークに、ミツキのアドバイスで麺を追いかけるスタイルから水面にフォークを入れて待ち構えるスタイルに変えたチャチャがお腹いっぱいになったころを見計らって、今度は流す役を代わってやっている。


 念のためにサナがサポートについているから大丈夫だろう。


 「ととさんに行くにゃよー、にゃっ!」


 予告投球なので上流のミツキやサオリさんが譲ってくれた素麺を箸で掬い、めんつゆにつけて啜る。


 「うん、美味いな。」

 「にゃー。」

 「良かったね、ちーちゃん。」

 「はいにゃー、じゃ、次いくにゃー!」


 こうしてしばらくのあいだ家族で流し素麺を楽しんだ。


 チャチャにゃー。

 ソーメンさんがつるるつるーって走ってくるのにゃ!

 それをにゃっ!ってとって、ぽちゃっていれて、ちゅるんと食べるのにゃ!


 面白くて美味しいのにゃー。


 次回、第四六六話 「いってらっしゃい」


 つるつるーって流すのも楽しいのにゃー。

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