第四五八話 「養う事と尽くす事」
普段の生活のレベルにもよるが、あえて裕福で良識的なご主人様の奴隷になるという選択肢もありえるなら、サナやミツキが中々奴隷から解放されたがらないのも……いや、違う、そっちじゃないな。
この隷属魔法の内容は一言でいってしまえば「養う義務と尽くす義務」の契約だ。
その魔法の名前自体にとらわれず、仮にこの契約が双方向に発生するとしたら
「もしかして隷属魔法は、元々婚姻を祝福する魔法だったりしない?」
「元々というか、この魔法の始まりはレン君のいうとおり婚姻を祝福する儀式魔法ですし、今でも部族間や国家間での婚姻の際には、使われることもありますよ。」
隷属魔法ほど制約は強くありませんけどね。と、言葉を続けながらサオリさんが解説してくれた。
祝福魔法の双方に向いた制約の矢印を折り曲げて、一方向に強く制約を向けたのが隷属魔法という考え方でいいのかな?
それならサナやミツキがいうような、たとえ奴隷としての繋がりでも切られるのが惜しいという感情は、この繋がり自体を疑似的な婚姻の祝福だと捉えているせいかもしれない。
そう思ってミツキの方を見ると目をそらされ、いつの間にかいつものポジションに座って来たサナはというと、動じた様子もなくニッコリと微笑んでいる。
「なんとなく二人が奴隷から解放されたがらない理由が分かった気がする。」
「け、経済的な理由じゃないッスよ!?」
いや、頭の良いミツキなら最初はそのつもりもあっただろうが、今はその点を疑っていない。
「わかってる、わかってる。大丈夫、無理やりな縁が無くなっても、ちゃんと一緒にいるよ。」
「お父さん…。」
「パパ…。」
二人とも勘違いをしているかもしれないけど、ずっと一緒にいたいのは私も同じなのだから。
▽▽▽▽▽
「サオリさん、すみません、代わりに出てください。」
「うふふ、わかりました。」
右腕をサナに、左腕をミツキに取られ、膝の上をチャチャに占領されて動けない状態のため、扉へのノックの対応をサオリさんにお願いした。
少しだけドアをあけ、なにやら短い話をした後、ラブホテルの部屋の中身が見えないようにか素早く部屋を出ていくサオリさん。
「かかさん、どこへいったにゃ?あ、戻ってきたにゃ。」
チャチャの問いに答える前に、サオリさんが手紙を持って戻って来た。
「招集状だそうですよ?」
そういって私に手渡そうとしたが、両手両足が塞がっているのを見て少し笑いながら封を開け、中身を見せてくれる。
興味があるのかサナやミツキも覗き込んでくるが、内容を端的にいってしまえば、今日中に公認奴隷商のところに来てサナとミツキの奴隷解放をしろ。と、いう内容の市当局からの手紙だ。
二人を名指ししているが、実際のところメインはサナの方だろう。
『金剛鬼』サビラキ・サオトメ本人に孫が奴隷化していること気づかれる前に、あるいは逆に保護して奴隷解放したという恩を売るために、といったところかもしれない。
まぁ、前者については既にサオリさんが手紙で報告しているので時すでに遅しだし、後者は実質私個人でやっていることなので市当局の恩にはならないと思う。
単にヤバいネタは早めに解消してしまいたい。と、いうだけの話なのかもしれない。
二人の分の奴隷解放権利書は公認奴隷商のところで用意してあるので、探索者タグだけ必ず持参するようにと注意書きが書いてある。
手続き的にはミツキがいったとおりになりそうだな。
手紙を読んで同じことを思ったのか、ミツキがちょっとドヤ顔をしている。
「それはそうとして、鑑定結果は少しいじっておいた方がいいと思うッスよ?」
視線に気づいたのか、ミツキがそう話しかけてくる。
「なんだかんだでアタシ達、噂の人達になっちゃいそうッスからね?
奴隷商のところで人物鑑定されなくても、今後、こそっと人物鑑定してくる人とか出てくるかもしれないッス。」
「そうだよなぁ。」
結局、話がそこまで戻ってきたので、改めてサナやミツキ、そしてサオリさんと相談の上、サナとミツキの鑑定結果を調整することにした。
と、いっても一応シルバーの探索者なのでレベルの下限は20。
年齢とレベルとのバランスをサオリさんと同じように+6前後くらいで考えて、結局二人共レベル21にすることにした。
あと、密かにサナのスキル【性技】は表示から消しておく。
パーティー的に考えると、サオリさんがレベル33でリーダー、サブが私のレベル26といった感じに見えるだろう。
ミツキッス。
ママさんは言わなかったッスけど、隷属魔法を相互にかけて婚礼の強い結びつきとする。って風習も場所によってはあるッス。
実際には双方の効果と制約が打ち消し合って、祝福の儀式と大した変わらないそうッス。
次回、第四五九話 「ナルシストとスキル」
いや、そこまでは求めてなかったッスよ?
でも、少しだけ夢見てたッス。




