第四五一話 「夜市とおつかれ」
「おつかれさま。」
「おつかれさまにゃー。」
おかみさんの屋台でサナ達を出迎える。
「ホント疲れたッスよー。」
「あら?レン君が先に飲んでるなんて珍しいですね。」
「ちーちゃんがお腹空いちゃったからですか?」
やっぱりサナには普通にバレるか。
あの後、大聖神国街の東門と南門でそれぞれ馬車の扉を開けた後、先にサナ達と待ち合わせ場所に指定しておいた、このエグザルの夜市のおかみさんの店で待っていたのだが、周りの良い匂いに釣られてチャチャのお腹が鳴り始めたのだ。
チャチャ自体は自分からお腹空いたという性格でも、もちろんご飯をねだる性格でもなく、むしろ遠慮するタイプなので、私が酒を飲みたくなったというていで、ツマミになるようなものを頼み、それをチャチャにもお裾分けしていたという状態だ。
何も食べずに席を占領するのも、おかみさんに悪いしな。と、いう気持ちももちろんある。
と、いうわけで先に一杯始めさせて貰っていたというわけだ。
ちなみにチャチャもグレンジュースでお付き合いして貰っている。
このジュースの元になったグレンという果物はチャチャが大聖神国街で貰った果物で味的にはグレープフルーツとレモン合いの子みたいな感じだ。
ちなみにレモンはレモンでそういう名前の果物がちゃんと別にあり、グレープフルーツも同様に別にある。
とはいえ元の世界と全く同じものではないので、見た目も味も、『だいたいレモン』あるいは『だいたいグレープフルーツ』と、いった感じだ。
食材はどれも大体こんな感じだな。
元の世界の物の名前が付かない、言ってみれば翻訳されない果物、たとえばブダとか今回のグレンとかは元の世界にあるものとは致命的にどこか、具体的には形状や味とかの違いでその『だいたい』にすら該当しないといった特徴がある。
今回のグレンなんて、外見と果皮はレモン風で味はグレープフルーツ寄り、果肉と種はメロン風といった不思議果物だ。
味はともかく、畑になっている様子から考えると一応メロンの仲間なんだと思う。
「見たことのない瓶ですね。」
私の飲んでいるお酒に興味があるのかサオリさんが横に座り、並んだ瓶を手に取って眺めている。
「大聖神国街のお酒とジュースですよ。」
おかみさんから人数分のコップを貰い、不衛生だが自分の飲みかけのお酒を使ってコップの縁を濡らし、逆さにして小皿の上の塩をまぶした後、お酒の方を1、グレンジュースを2の割合で入れ、マドラー代わりの箸でよく混ぜる。
今回買ったお酒はウォッカ風のお酒なので、出来上がったのはソルティードッグ風カクテルだ。
お酒の方はストレートで飲むのもありだが、チャチャのジュースと見た目のお揃い感を出すため今回はカクテルにしてみた。
ちなみにチャチャのコップの縁には塩じゃなくて砂糖をまぶしてある。
もっとももう全部舐められてしまっているが。
「はい、どうぞ。」
コンコンコンと、左右に座ったサオリさんとミツキ、そして正面のサナの前にコップを置く。
「お酒と混ぜたんですか?」
サナが珍しそうにコップの中を覗いている。
「この辺りじゃやらないのかい?」
「混ぜたものを売る。ってのはあるッスけど、買ったものを混ぜるってのは、あまり知らないッスね。」
手にしたコップの匂いを嗅ぎながらミツキが答えた。
「この辺りでも酒を専門にしている店なら出すけど、酒も飲める程度の店や宿なら見ることはないだろうね。はい、お待たせ。」
先にこのカクテルをお裾分けしておいたおかみさんが、そういって持ってきた料理をテーブルに並べていく。
「なるべくこれに合うような料理にしたから、ゆっくりしていってね。」
「ありがとうございます。」
その言葉と気遣いに頭を下げ、顔を上げると同じ行動をしていたサナと目が合った。
「ふふっ、いつのまにか大所帯になったねぇ、たまにはうちにもまた来ておくれよ?」
そういってカラカラ笑い、軽く手を振りながら調理台の方に戻っていくおかみさん。
そういや、ここに最初来た時はサナと二人きりだったな。と、ちょっと懐かしく思っていると、サナも同じ事を考えたのか、こちらを見て柔らかに微笑んでる。
「なんか、またさりげなくいちゃついてないッスか?」
いや、距離と格好的にはミツキの方がいちゃついているだろう。
コップを配り終えた途端、右手に巻き付いてるんだから。
「うふふ、お酒も美味しそうだし、お料理も冷めたら勿体ないから、もういただきませんか?」
もう待ちきれないといわんばかりにサオリさんがそう提案する。
「そうですね。では、今日はお疲れ様でした。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「!?にゃんはい!」
一瞬遅れたがサナのリードもあってチャチャもコップを合わられた。
サオリです。
全部お酒かと思ったら、半分以上は果汁の瓶なんですね。
飲みすぎにならないかとちょっと心配してましたが大丈夫そうです。
次回、第四五二話 「報告会」
うふふ、杯の縁についたお塩が日本酒飲む時みたいなのが、ちょっと面白いです。




