第四三七話 「発情臭」
「アタシが発情ッスか?」
「どっちかというと、ミツキも。だな。
みんな『レベル上げ』の時、興奮が高まり過ぎると、身体からフェロモンみたいな独特の香りがしだすんだよ。
たぶん、あれ、発情してる臭いだと思う。」
ポンポンとベッドの上の二人の間に座るようにサナに促されながら、そうミツキの尻に語りかけると、ミツキはベッドに突っ伏した状態からガバっと起き上がり座り直した。
女の子座りでうさ耳が片方曲がっているのは可愛いが目がグルグル目で顔も赤い。
本人としては思ってもみなかった事を言われた様子で混乱気味らしい。
「ふぇろもんが何かはわからないですけど、発情臭がする事があるってことですか?」
「あれも発情臭なのかな?サナは心当たりある?」
ミツキと違ってサナはこういう話題では真面目というか恥ずかしがらない。
「んー、そういえば発情期終わってるはずなのに、お母さんから発情臭する時があります。昨日とか。」
すまん。昨日のは私がサオリさんに淫魔法【発情】をかけたまま忘れてたのが原因なのでまた別問題だ。
「あと、キャンプの晩の時とか。」
えーと、私が『兎の加護』で発情しちゃって、大暴れしちゃったときだな。
「その時はサナもだね。」
「やっぱり。」
どうやらサナには自覚もあったらしい。
「あたしも発情期の時みたいに、お父さんにポワーってさせられる事がよくあると思ったら、あれ、ちゃんと発情してたんですね。」
何故か嬉しそうにそう話すサナ。
亜人族の女性にとって発情期以外に発情するとか、発情させられるというのは、何か別の意義があるのかもしれない。
「キャンプの時はともかく、ミツキは二人っきりの『レベル上げ』じゃないと、めったに発情していないみたいだけど痛い痛い痛い…」
話の途中でミツキが枕をバンバン叩きつけてきた。
「み、認めないッス!」
今度は枕を胸に抱きしめ。それに半分顔を埋めながら真っ赤になってこちらを睨んでいる。
「ミツキの場合は、臭いもそうだけど、発情すると話し言葉が兎人語に痛い痛い痛い…」
「してないッス!」
どうしてもミツキは否定したいらしい。
人族ならともかく亜人族が発情することは自然の摂理なんだから、そんなに恥ずかしがらなくても…と思っているとサナに袖を引っ張られた。
「なに?サナ?」
ミツキの方からサナの方に向き直ると、サナがこっそり耳打ちしてきた。
「あのね、お父さん、亜人族の女の子は、身も心も全部貴方のものだから絶対孕ましてね。ってくらい好き好き状態じゃないと、発情期じゃないのに発情したりなんかしないんだよ。」
ちょっと熱の籠もった吐息混じりの声にびっくりして耳を離すと、サナがにっこりと妖艶な笑みを浮かべていた。
サナとしてはそれくらい好きな状態を身体でも証明できていた。というのが、さっき嬉しそうにしていた理由か。
一見エロく感じてしまうが、本来、発情期の発情は子作りのためな事を考えれば当然かもしれない。
そう考えれば昨晩のサオリさんの暴走も納得だ。
それにしても『レベル上げ』では一歩引いたところがあるというか、周りに遠慮がちなミツキまでもが、そこまで想ってくれているとは、ちょっと胸が熱くなるな。
「何ニヤニヤしてるッスか!そりゃ、パパの事は大好きッスけど、そ、それは父親として好きなだけッスよ!」
ミツキから投げつけられた枕とそんな言葉をキャッチする。
「ほんとに~?」
煽ってるつもりはないのだろうけども、赤面したミツキの顔を下から覗き込むサナ。
恥ずかしがっているミツキは嗜虐心を刺激するよな。わかる。超わかる。
「ホントッス。いや、違うッスよ?パパに孕まされるのが嫌って事じゃないッスよ?」
ハッという顔をして言い訳をするミツキ。
いや、孕ませはしないが、嫌じゃないのは知ってるし。
っていうか、ミツキ、兎人語出てる時は自己申告でおねだりしてるしな。
「じゃあ、こうしよう。これからミツキに発情する魔法をかける。
そこで、その発情がミツキにとって初めての感覚だったらミツキの勝ち。」
「そうでなかったらミツキちゃんの負け?」
「そうだね。」
「そ、その挑戦、う、うけてやるッスよ!」
結局発情させられる勝負をあっさり受けてしまうなんて、ミツキらしくない。
相当テンパってるんだな。
ミ、ミツキッス!
なんでサナちーは恥ずかしくないッスか!?
実質これ、最大限の愛の告白ッスよ?!
そ、そもそも、最中に発情するなんて、その、エッチな娘みたいじゃないッスか。
次回、第四三八話 「勝負の行方」
え?これアタシがおかしいんスか?
違うッスよね?




